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従業員が辞めるのは自由でも、辞めてもらうのは簡単ではありません。解雇に踏み切るその前に、注意点を弁護士が解説します。

従業員が辞めるのは自由でも、辞めてもらうのは簡単ではありません。解雇に踏み切るその前に、注意点を弁護士が解説します。

解雇の「不自由」はなぜ起こるのか

「おまえはクビだ!」の一言で解雇されてしまった主人公が、明日からの生活に思い悩む中で、物語は始まりを迎える。ドラマや映画では、よく見かける出来事です。しかし現実の世界では、その次にやってくるのは辞めさせた従業員が依頼した弁護士からの内容証明郵便であり、行く先にただ煩わしいトラブルが待っているのみです。

もしかすると、今まで何人か解雇したことがあるけれども、文句を言ってきた者は一人もいないので、トラブルを恐れて解雇を控えるのは、経営者としての覚悟が足りないとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、解雇された従業員のうち、会社に対して弁護士に依頼してまで反撃を加えようとする人は、昔は少なかったかもしれません。

しかし、今や誰もが瞬時に大量の情報に接することができる時代です。少しでも解雇に納得がいかないと思えば、インターネットを使ってほんの数分検索するだけで、労働者側の立場から、解雇の効力を争って会社と対決することを請け負う弁護士の情報は、山のように出てきます。そしてそこでは必ず、「解雇はそう簡単にできないので勝算がある」という論調の説明がなされています。

どうしてそのような強気なことがいえるかというと、我が国では雇い主と従業員との関係についての法律の体系が、「労働者を保護する」という価値観で出来上がっているからです。どこでどのように働くかについては、雇い主と従業員との間で取り交わされる雇用契約によってその内容が定まります。

解雇するということは雇い主側から、辞めるということは従業員側から、それぞれ契約を一方的に破棄することを意味します。一度結んだ契約は、そう簡単に破棄することはできないことは当たり前なので、解雇が簡単にできないこともまた当たり前だということになります。このことは法律上、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という定めとして端的に表れています(労働契約法16条)。

そうすると、従業員が辞めるということも、契約の一方的な破棄なので、簡単にはできないのではないかという疑問が当然に出てきます。しかし法律は、期間の定めなしに雇った従業員は、雇い主が承諾しなくとも、申し入れから2週間経てば辞めることができると定めており(民法627条1項)、期間の定めをおいた場合でも、やむを得ない事由があれば、すぐ辞めることができると定めています(民法628条)。

従業員が辞めるというのは自由なのに、会社から辞めてくれということは制限されるというのは、不公平ではないかと思われることでしょう。しかし我が国では、憲法によって、誰にも公共の福祉に反しない限りで、「職業選択の自由」が保障されています(憲法22条)。今の仕事を辞めて、他の仕事に就きたいというのも、自分の意思に反して退職させられないことも、どちらも我が国の重要な価値観として定まっているので、法律の世界では、こと解雇についていう限り、簡単にはできない制度とすることこそが、むしろ当然と理解されているのです。

懲戒解雇におけるポイント

「許せない」という気持ちが先走ると危険です

解雇はそう簡単にはできないというのが法律の固い考え方ですが、もしそれが「何が何でも解雇はできない」というものであったとすると、明らかに行きすぎです。すべての従業員が誠実であるとは限らないのであって、勝手が過ぎたり、会社に害をなしたり、他の従業員の働く環境を害したりするような、いわゆる問題社員、モンスター社員も解雇できないとあっては、不誠実な者ほど、やりたい放題ができてしまうためです。

従業員の行動があまりにもひどくて、絶対に許しがたいとの域にまで達したとき、「懲戒解雇」という方法が思い当たるかもしれません。懲戒解雇は、単に解雇するだけでなく、「罰として行う」解雇なので、許されないことをした従業員に対してとるべき手段として、真っ先に思い当たることも当然であるといえます。

しかし、我が国は法治国家ですから、雇い主であっても、従業員に対して罰を与えるのに、雇い主の「気分次第」で対応して良いはずがありません。どういう場合に、どういう罰を与えるのかは、あらかじめ就業規則によって懲戒の種別と事由を定めておかなければならないというのが定まった判例の考え方です(最判平成15年10月10日)。許しがたいという行為があっても、それが就業規則において「懲戒解雇にあたる」こととして定められてなければなりませんし、そもそも就業規則がない事業所であれば、懲戒解雇ということ自体、できるのかどうかという議論さえもあります。

では、就業規則に定めを置いていれば、懲戒解雇は問題なく行えるかというと、そう単純ではありません。まず、懲戒解雇が不当だとして争われる場合には、「そんなことはしていない」であるとか、「そういう行為はあったかもしれないが、就業規則の定める懲戒解雇事由に当てはまらない」などと主張されることがよくあります。こういう主張がなされたとき、事業所は、実際にその従業員が問題行動を起こしたことと、それが就業規則の定めに当てはまることを「証明」できなければなりません。

この「証明」の方法として、「この従業員に迷惑をかけられた者はたくさんいるので、いくらでも証言してくれる」というお話しがよく出てきます。しかし、人の口からはどのようにでも物事を語ることができるので、「証言」なるものの証拠としての価値は、思ったほどは高くありません。どういう問題行動があったのか、当時の記録として書面で明らかにできなければ、この「証明」の問題でつまずいてしまいます。「証明」ができなければ、事実があったことを前提にできないので、結局、「そういう行為はなかった」という従業員の主張が通ってしまうこととなります。

このように、実際に懲戒解雇にあたる行動をしていたことを「証明」できなければ、その時点で懲戒解雇の主張は通りません。では「証明」さえできればそれで良いかというと、さらに次のハードルが待ち構えています。法律では、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」との定めがあるためです(労働契約法15条)。

就業規則において、こういう行動をした者は、懲戒解雇とする、と定めていたとしても、そういう行動に出たのかどうかが、経営者の主観的な判断だけで決まる場合や、普通はそういうことを懲戒解雇の理由とはしない、という場合には、「客観的」ではない「合理的」ではないということで、そもそも懲戒解雇とすること自体が問題だ、ということになってしまいます。

また、そういう行動に出たことが証拠上も明らかになっていて、そうであれば解雇ということもあり得るとして、客観的な合理的理由を伴っていたとしても、そこで実際に懲戒解雇することが、「社会通念上相当であると認められない場合」は、懲戒解雇は無効となりかねません。この「社会通念」は、我々の考える常識であるとは必ずしも限らず、裁判所が法と裁判例に照らして考える「社会通念」です。たとえば、問題行動が今回初めてのものであったり、事業所に生じた「実害」が見えにくいという場合には、たとえ就業規則上、懲戒解雇にあたり得る事由があったとしても、社会通念上相当ではない、との理由で懲戒解雇は無効となってしまうのです。

このように、懲戒解雇を有効に行うためには、数多くのハードルがあります。それでもあえて懲戒解雇をするという目的は、たとえば退職金を減額したり不支給にしたり、解雇予告手当を支払わないというところにあると思います。しかし、たとえ懲戒解雇であったとしても、裁判所は退職金をゼロとすることに極めて消極的ですし(一例として、東京高判平成15年12月11日)、解雇予告手当を支払わないことが認められるためには、予め労基署長の除外認定を受けなければなりません(労基法20条1項但書)。この除外認定は、そう簡単にはもらえません。「許せないから懲戒解雇」という気持ちはよくわかりますが、法律上のハードルの高さと、それを乗り越えた上で、得られるメリットの低さを考えれば、何が何でも懲戒解雇ということには慎重になるべきです。

普通解雇におけるポイント

懲戒解雇よりハードルが低くなるかというと、そうでもない

このよう、懲戒解雇による場合には、ことが「懲戒」であるだけに、就業規則による定めの有無や、定めがあったとしても、その該当性がトラブルの種となりやすいといえます。「許せない」という気持ちをおさめるためには、懲戒解雇という手段はよくマッチするのですが、重要なのは「辞めてもらう」ことなので、あて「懲戒」という意味合いを伴わない、通常の解雇、いわゆる普通解雇の方法によることが考えられます。

普通解雇の場合、法律上の解雇予告義務(労基法20条1項本文)を伴いますし、退職金制度がある事業所であれば、規定に従って退職金を支払う必要も生じます。ですがこれは、懲戒解雇によれば、当然に免れるというものではないので、普通解雇ではなく懲戒解雇を選ぶという積極的な理由にはならないといえます。

では、懲戒解雇ではなく普通解雇とすれば、解雇のハードルは下がるのでしょうか。ここで法律を見てみると、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」との定めが置かれていることがわかります(労働契約法16条)。懲戒についての定めと見比べてみると、ほとんど違いがありません。実は、懲戒解雇であっても普通解雇であっても、それだけの客観的に合理的な理由があるか、そうすることが社会通念上相当かという枠組みは同じで、対象となる事項の程度が異なっているというだけのことなのです。

たとえば、心身の病気で、業務を続けさせることができない場合や、能力が低いというような場合には、病気になったことや、能力が低いということを「懲戒」の対象とすることは、いかにも不合理です。しかし、仕事ができないというのでは、雇い続けるわけにはいきませんので、普通解雇の理由にはなり得ます。

問題は社会通念上相当か、というところにあります。裁判所が考える「社会通念」の下では、従業員に職業選択の自由があること、つまりこのまま働き続けることができる選択の自由があるとしても、会社が我慢して働かせ続けるには行きすぎだ、といえるかどうかが物差しとなります。より端的にいえば、このまま雇い続けることがどれほど会社にとって「害悪」になるかを証明する必要があり、これまでどれだけ会社が雇用継続のために努力をしてきたか、ということを具体的な資料による裏付けを伴って説明しなければなりません。能力不足の従業員についていえば、これまでどれだけ注意指導を繰り返したか、それでも改善がなかったことや、どうかすれば反抗的でさえあったなど、「こんなに頑張ったのに、まだ雇い続けろというのですか」ということが説明できる必要があるということになります。

理想をいうならば、リスク回避のためには、解雇に踏み切る前に、対象となる従業員と話し合って、合意の上で退職をしてもらうということが実現できることが一番望ましいといえます。会社から「辞めて欲しい」という意向を伝えて、従業員も理解して退職する、という方法を退職勧奨といいます。しかしこの方法は、あくまでも最終的に従業員が理解して退職するという過程を経なければならないので、強要はできません。退職を押しつけていると評価されると、それ自体が不法行為として損害賠償の対象になりかねません。

なお、従業員から退職届が提出されて、事業所としても退職を受け入れるということであれば、速やかに退職を承諾する旨の通知を発しておくべきです。退職届が「退職したいけれども、応じてくれますか?」という意味合いのものであれば、事業所が「応じます」という意思表示をするまでは、撤回できてしまうためです。退職勧奨に成功して、せっかく退職届の提出があったのに、撤回されてしまうと逆戻りになってしまいますので、くれぐれも注意が必要です。

整理解雇におけるポイント

特殊な解雇の形式です

ところで、解雇といえば、普通は従業員側に何らかの問題があることが多いでしょう。しかし、業績不振から事業を縮小したり、人員を削減する必要があって、従業員には問題がないけれども、辞めてもらわなければならないということもあり得ます。こういう場合に行う解雇は、一般的に整理解雇といわれています。

整理解雇は、もっぱら事業所の経営上の都合によって行われるので、さらに別の観点からの配慮が必要となります。判例上は、

①人員削減の必要性

②解雇回避努力

③人選の合理性

④手続の妥当性

という4つの要素を総合的に考慮して、整理解雇が有効かどうかが判断されています。これを整理解雇の四要素といいます。

なぜ整理解雇をしなければならないか、経営上の必要性が伴わなければならないことは勿論ですが、いきなり整理解雇をするのではなく、希望退職者を募集したり、配置転換での雇用継続を試みたり、雇用調整助成金を活用したり、まずは解雇回避の努力がなされなければなりません。その上で、なぜこの人たちを対象としたのか、これだけの人員を対象としなければならないのかという、対象者の選別についても、合理的に説明ができなければなりません。そして、整理解雇についての説明や協議を従業員や労働組合と誠実に行うことも重要で、「整理解雇ありき」ではなく、整理解雇そのものを回避できないのか、回避できないとしても、一時金の支給や就職あっせんなどの配慮ができないのかなど、従業員に納得してもらえるだけの協議がきちんと踏まえられていることも重視されます。

従業員の解雇に伴う法律トラブルには弁護士のサポートが必要不可欠です

解雇に踏み切るからには、肌感覚として、その従業員の問題性を感じておられるからこそのことだと思います。だからこそ、「こんな従業員を解雇できないはずがない」という思いを強くお持ちのことでしょう。しかし、「そんな従業員」であればあるほど、自分には何も問題がなかった、という主張をしがちです。そういう態度をとられた場合には、「証拠」によって、事業所側の主張が正しいことを証明しなければなりません。

対応が難しい従業員を解雇する場合にこそ、法律トラブルが生じる危険性は高いといえます。解雇に伴って起こり得る法律トラブルに対しては、解雇に踏み切る前に、法律が求めている手順をきちんと踏んで、後日の立証に備えた「証拠固め」が必要不可欠です。これを行うためには、会社側の立場から労務問題に携わることに長けている弁護士のサポートがなければ安心することはできません。

当事務所では、地元京都をはじめとする多くの事業所様からのご用命を受けて、従業員の解雇に伴うトラブルに対応して解決してきました。より早い段階でご相談いただければ、より手堅い方法でのサポートが可能です。すでにトラブルになってしまった場合にも、勘所を押さえられるかどうかによって、解決水準は大きく違ってきます。解雇するしかないとお考えの従業員を抱えておられる事業所様におかれましては、会社側の立場から労働問題解決に注力している当事務所へ是非ともご相談ください。

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