休業補償100%を求める労働組合への対応
「ノーワーク・ノーペイ」という考え方
新型コロナ感染拡大防止のため、日常生活が大きく制限される中、接客を伴う業態は、営業自体がままならないという状況にあることが少なくありません。
やむを得ず、休業を余儀なくされた場合、事務管理部門やリモートワークで対応できる業務でもない限り、仕事自体がないので、従業員にも休業してもらわざるを得ません。
新型コロナ問題が発生した当初、会社経営者の皆さまの中には、こうして休業してもらっている従業員に対しても、ある程度の賃金(給料)相当額を支払わなければならないことになるとは、思ってもみなかった、という方も多くおられるのではないでしょうか。
賃金は本来、働いてもらった分に対して支払われるものですので、働いてもらっていない期間に対しても、賃金相当額の支払いが必要になるということは、会社側からすると、納得しにくいところです。
実際、無断での欠勤や遅刻・早退があった場合には、月給制の場合であったとしても、就業規則等によって明確に定めておくことにより、欠勤分に相当する賃金を控除することは、ごく常識的な方法です。
新型コロナ感染拡大防止のための休業は「誰のせい」なのか
しかし、新型コロナ感染拡大防止のための休業時に、無断での欠勤や遅刻・早退があった場合と同じように、賃金が支払われない、ということになったとき、仮に従業員の立場に立ってみて納得できるでしょうか。
無断での欠勤や遅刻・早退は、多かれ少なかれ、従業員側の事情によるものですから、その分、賃金が控除されたとしても、仕方ないといえるでしょう。しかし、新型コロナ感染拡大防止のための休業は、従業員には何も責任がないことです。賃金が支払われないとあっては、生活もままなりません。
一方で、最終的に休業に踏み切るかどうかは、会社側の判断によるものです。会社としても、休業したくて休業するわけではありません。しかし法律は、少なくとも従業員側に責任はなく、さりとて物理的に営業ができないわけでもない場合の休業については、広い意味で、会社側の都合ととらえ、平均賃金の60%以上を支払うことを義務付けています(労基法26条)。
これは結局、「休業は会社が悪いからだ」とまではいえなくとも、賃金が全く支払われないとあっては、従業員がたちまち生活に困ってしまうので、会社の負担で特別に従業員の生活保障をしようという、政策的な目的によるものといえます。
「休業補償100%」という主張は妥当なのか
労基法26条に基づく平均賃金60%以上の支払分は、本来、賃金としての支払義務がないところに、特に従業員の生活保障のために、支払いが義務付けられているものです。したがって、この休業手当分は、賃金の「代わり」ではあるものの、働いたことの対価としての賃金「そのもの」では本来ありません。
従業員が会社に対して100%の賃金の支払いを求めることができるのは、働いたからこそのものであり、働いていないのに100%の支払いを求めることは、有給休暇等、法律上の根拠がない限り、原則的に理屈が通らないことです。
しかし、たとえば従業員を解雇したことにより、以後、働きに来てもらっては困る、という対応をした場合で、その解雇が後日、裁判によって無効と判断されてしまったような場合はどうでしょうか。この場合、会社が「働きに来てもらっては困る」という対応をしたこと自体が間違っていた、ということになります。
会社が間違った対応をしたことにより、従業員が働きたくとも働けなかったような場合には、会社がその従業員が働いていないことを理由に、賃金の支払いを拒むことは、スジが通らないといわざるを得ません。
このように、会社が間違った対応をしたことで、従業員が働けなかった場合には、実際に働いていなくとも、その間の賃金相当額の支払義務が生じてしまいます(民法536条2項)。
新型コロナ感染拡大防止のための休業を余儀なくされはじめた当初は、この考え方を参照して、休業時には会社から賃金100%相当額の支払いがなされるべきである、との主張がなされることが少なくありませんでした。
しかし、新型コロナ感染拡大防止のための休業を、不当な解雇のように、会社が間違った対応をしたことによるものと扱うことには無理があります。特に地元京都のように、緊急事態宣言による営業自粛要請がなされているような状況下では、休業が正しい選択であるとさえいえます。
もともと、労基法26条による休業手当と、民法536条2項による賃金相当額の支払いが必要となる場合とでは、会社が間違った対応をしているのかどうか、という点において、根本的に制度の趣旨が違っています。両者を同じものとして並べて扱うことは、それ自体、法律の解釈として疑問です。
もし、労働組合を通じて、休業補償100%の要求があった場合、まず法律の考え方として、これが当然のものではないという理解を持つことが重要です。
とはいえ、雇用調整助成金制度の特例を活用することにより、現に60%を超える賃金相当額の支払いができる場合や、営業自粛要請との関係性が薄い自主的判断による休業の場合などには、従業員の立場からすると、会社が60%の休業手当相当額の支払いで足りるとすることに納得が得られない場合があり得ます。
労働組合から団体交渉の申し入れがあった場合、何ら交渉の機会を設けることなくこれを拒んでしまうと、不当労働行為となるおそれがあります。しかし、あくまでも交渉ごとですので、労働組合の要求をのまなければならないかというと、法的に誤っていない限り、そういう義務が生じるわけではありません。
労働組合から休業補償100%を求める要求があった場合、団体交渉で何をどのように説明をして、どこまでの対応で決着をつけるべきか、法律の考え方に沿った対応をすることが重要です。
当事務所では、会社側の立場から労働問題に注力しており、団体交渉での会社側の対応方法についてのサポートプランを用意させていただいております。労働組合から休業補償をめぐる団体交渉の申し入れがあった際には、是非とも当事務所にご相談ください。
>>労務トラブルに強い京都総合法律事務所の「労務支援コンサルティング」についてはこちらを御覧ください
京都総合法律事務所は、1976(昭和51)年の開所以来、京都で最初の「総合法律事務所」として、個人の皆さまからはもちろん、数多くの企業の皆さまからの幅広い分野にわたるご相談やご依頼に対応して参りました。経験豊富なベテランから元気あふれる若手まで総勢10名超の弁護士体制で、それぞれの持ち味を活かしたサポートをご提供いたします。
法律相談のご予約はお電話で
土日祝:応相談