会社の金銭を横領した従業員への対応
従業員による横領が発覚しにくい事情
従業員による横領は、かなり多額の被害が発生してはじめて発覚する場合が多く、それまでの間、数年間にわたって、会社が全く気づいていなかったという例が少なくありません。その原因は様々ですが、会社の経理が一人に任されており、経営陣が金銭の動きにあまり頓着していなかったことが一因になったというケースがほとんどです。
長年にわたって隠蔽されてきた横領は、ふとしたきっかけで発覚しますが、何年にもわたって露見しなかったのにはそれなりに理由があり、多くの場合、帳簿上は、特におかしな金銭の動きは見えません。そのため、実際に発覚したものを超えて、過去の横領分まで責任を追及しようと思っても、十分な証拠が発見できないことも少なくありません。
会社の金銭を横領する行為は、損害賠償請求の対象となるだけでなく、犯罪です。しかし、証拠が伴わない場合、当の従業員に知らぬ存ぜぬを通され続けると、裁判に訴え出たとしても十分な判決が得られる見込みは乏しく、まして警察に持ち込んだとしても取り上げてもらえません。こうした事態を未然に防ぐためには、何よりも経営陣が会社の経理を最終的に掌握してコントロールできる体制が確立されることこそが重要です。
横領に及んだ従業員への法的対応
会社に対して故意に経済的損失を与える従業員の行為は、最も深刻な背信行為であり、金銭の横領に及ぶなどは、もってのほかであるといえます。したがって、このような従業員は懲戒解雇にしたいとの考えが出てきて当然であるといえます。
しかし、懲戒処分はそもそも労働契約上に明確な根拠がなければなし得ないものであり、典型的には就業規則に懲戒事由とどのような懲戒がなされるかが明記されている必要があります。金銭の横領が懲戒解雇に該当することが就業規則等に定められていると解釈できない場合や、そもそも就業規則が定められておらず、労働契約書等にも懲戒に関する定めが置かれていない場合には、懲戒解雇自体ができないのです。
このようなことにならないよう、就業規則はきちんと整備しておくことが必要です。
多くの会社では、従業員が懲戒解雇となった場合には、退職金を不支給とするという定めが置かれています。こういう規定が置かれている場合でも、懲戒解雇事由がこれまで勤続したことの功績を帳消しにしてしまうほどの著しい背信行為がないと、全部不支給というわけにはいかないとするのが判例の基本的な考え方ですが(東京高判平成15年12月11日)、金銭の横領事案については、規定に基づいて退職金の不支給が認められる場合も少なくありません。
万が一、従業員の横領に直面してしまった際には、損害の回復とこれ以上の被害拡大の防止に努める必要があります。そのためには、問題を起こした従業員といち早く交渉をはじめ、十分に責任を自覚させた上での対応を求めることが重要です。その過程に懲戒解雇を含み、これが退職金の不支給とも関連する場合には、就業規則上の根拠を正しく理解して、法的な手順を踏んだ対応が必要不可欠です。当事務所では、横領に及んだ従業員に対する法的対応のほか、いざというときに困ることがない就業規則づくりのサポートをさせていただきますので、是非ご用命ください。
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