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退職勧奨を拒否した労働者に対して退職を説得することは許されるか?

 使用者が労働者を解雇した場合、その解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合解雇は無効なものとなります(労働契約法16条)。そして、ここに定められている解雇の有効性の要件を満たすハードルは非常に高いものです。

 では、解雇ではなく、労働者に「退職をしてほしい」ことを伝え、労働者に退職を促す退職勧奨であれば、労働者にどのような手段・方法で説得をしたとしても問題はないのでしょうか

 令和2年3月24日、個人面談における上司による従業員に対する退職勧奨の違法性が認められ、使用者に労働者に対して慰謝料(20万円)の支払いを命じる裁判例が出ましたので、ご紹介します(横浜地方裁判所令和2年3月24日判決・判例時報2021年7月1日号75頁)。

1 事案の概要及び争点

 総合電機メーカーであるYに勤務しているXが、Yに対し、Yから違法な退職勧奨を受けたと主張して、不法行為に基づき、Yに慰謝料の支払いを求めた事案です。

 Xの当時の上司であったAは、Xとの間で平成28年8月30日から同年12月27日までに、合計で8回の個人面談を行ったところ、この面談の中でXに対して行った退職勧奨が違法なものにあたるか否かが争点となりました。

2 裁判所の判断

 横浜地方裁判所は、まず、「退職勧奨は、その事柄の性質上、多かれ少なかれ、従業員が退職の意思表示をすることに向けられた説得の要素を伴うものであって、一旦退職に応じない旨を示した従業員に対しても説得を続けること自体は直ちに禁止されるものではなく、その際、使用者から見た当該従業員の能力に対する評価や、引き続き在職した場合の処遇の見通し等について言及することは、当該従業員にとって好ましくないものであったとしても、直ちには退職勧奨の違法性を基礎付けるものではない。」として、退職に応じない旨を示した従業員に対して退職勧奨を続けることをもって直ちに違法となるわけではないという一般論を示しました。

 その上で、本件では、「面談におけるA部長による退職勧奨は、労働者であるXの意思を不当に抑圧して精神的苦痛を与えるものと言わざるを得ず、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な退職勧奨と認めるのが相当」であるとして、不法行為の成立を肯定し、A部長の行為はYの業務執行に関してなされたものであることを理由に、Yに対して使用者責任を肯定し、YにXに対する慰謝料の支払いを命じました。

 まず、Aは、Xに対して、平成28年8月30日、現在の業務管理部門とは別の業務への転身を示唆し、同年9月7日、Yグループ内異動と社外転職支援プログラムの選択肢を提示し、前者については専門能力や経験がなければ難しいため、後者を薦める旨の発言をしたところ、同月23日、XはAに対し、転職は想定しておらず、Yの社内にとどまりたい旨の意向を明らかにしました。横浜地方裁判所も、遅くともこの時点においてXは、A部長が退職勧奨をしていることを認識し、これを拒否する意向を明確にしたものとの認定をしました。

 そして、A部長による退職勧奨は、Xが明確に退職を拒否した後も、9月27、12月5日、12月27日といった複数の面談の場で行われており、各面談においてXが改めて退職勧奨を拒否する意向を明確に示した後においても、退職勧奨を繰り返しており、その態様は相当程度執拗と認定されました。

 その上で、Aの面談は、確たる裏付けがあるとはうかがわれないのに、他の部署による受け入れの可能性を低いことをほのめかしたり、Xの希望する業務に従事してYの社内に残るためには他の従業員のポジションを奪う必要があるなどと、殊更にXを困惑させる発言をしたりすることで、Xに対し、退職以外の選択肢についていわば八方塞がりの状況にあるかのような印象を現実以上に抱かせたものと認定をし、更にAはXに対して単に業務の水準が劣る旨の指摘をしたにとどまらず、執拗にその旨の発言を繰り返した上、能力がないのに高額の賃金の支払いを受けているなどとのAの言動は、Xの自尊心を殊更傷付け困惑させる言動であるとの認定をしました。

 これらを総合考慮し、「Xの意思を不当に抑圧して精神的苦痛を与えるものと言わざるを得ず、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な退職勧奨と認めるのが相当」との判断がなされました。

3 まとめ

 退職勧奨は、その手段・方法が社会通念上相当と認められる方法を逸脱しない限り、使用者による正当な業務行為であり、不法行為を構成するものではありません。しかしながら、態様や表現方法等によっては今回のように違法と判断されることもあります。

 退職勧奨の違法性が争点となる事案では、退職を説得する行為態様や表現方法が問題となる場合が多いです。

 そして、どの程度の態様や表現方法であれば違法とならないか否かは、過去の裁判例等を踏まえることが必要不可欠であるところ、態様や表現方法がどの程度のものが違法となるか否かは各事例に応じた判断をする必要があり、一概に判断できるものではありません。判断に迷われるものがございましたら、ぜひ一度私たちにご相談いただくことをお勧めします。

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