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アカデミックハラスメントは教育機関を悩ませる大問題です

アカハラは教育機関独特のハラスメント問題です

アカデミックハラスメント(アカハラ)とは、大学等の教育機関内で、教員や職員が教育上、研究上または職場での権力を利用して、学生・大学院生等の教育指導や研究活動に関係する妨害やいやがらせの働きかけをしたり、不利益を与える行為をいいます。

アカハラの多くは、学内での事実上の優位な関係を背景に発生するので、パワハラの一種として現れます。また学内での関係が学外のプライベートに持ち込まれることも少なくなく、セクハラにまでエスカレートする例も少なくありません。そのため、学内でのパワハラ・セクハラ対策はアカハラ対策にもつながります。典型的なアカハラの例としては、次のようなものがあります。

①身体的な攻撃

学生に暴力をふるう、研究論文を面前で破り捨てるたり丸めて投げつける等

②精神的な攻撃

人格非難をしたり、長時間にわたって指導名目の叱責を続ける等

③人間関係の切り離し

特定の学生について指導しない、共同研究者に含めない、単位をことさら与えない等

④過大な要求

深夜や休日、長時間にわたっての研究の強要、行き詰まった際の責任押しつけ等

⑤過小な要求

雑用ばかりをさせる、ゼミや研究に参加させない、講義を受け持たせない等

⑥個の侵害

プライベートな連絡や関係を不必要に求める、就職先や転職先に無用な風評を流す等

 

大学をはじめとする教育機関では、教員と学生、後輩教員との間には、一種の親方と徒弟のような関係が作られがちです。また、大学等では教員や研究者が自治の担い手であると考えられているので、教員や研究者がそれ以外の職員に対して、事実上、優位な関係に立ちやすいという実情もあります。逆に、学内の勝手に不案内な若手の教員や研究者に対しては、むしろベテランの職員の方が優位にあることも珍しくありません。

一方の立場があまりに強いという人間関係は、他方を支配するのが当然だという風潮を生み出しやすくなります。そしてこういう関係が長年にわたって常態化すると、こうした関係が異常であるということさえ、気づきにくくなくなってしまいます。アカハラは、教育機関ならではのハラスメント問題であり、特に組織そのものが小さな「村」を構成するような場合には、いつ起きてもおかしくありません。

アカハラはパワハラ・セクハラに当たるものだけではありません

世に言うハラスメントは、平たく言えば「いじめ・嫌がらせ」の類いであり、強い者が弱い者に対して行うという構図を伴いがちです。しかし、教育指導の場面では、特に厳しい対応が求められることもあります。そのため、教育指導や教育機関の運営のために必要な対応が強い姿勢で行われたとしても、そうした対応の全てがハラスメントに当たるというわけではありません。

パワハラという枠内でハラスメントを考えた場合、教育指導や組織運営上の必要があって、社会的にも許容されるような対応は、これによって不満を訴える者があったからといってもアカハラにはあたりません。しかし、パワハラの枠外に収まらない対応であっても、それ自体が「いじめ・嫌がらせ」というべき対応は、アカハラにあたり得ます。

たとえば、若手の研究者による研究成果へ先輩の研究者が共同研究者として名前を連ねることは、合理的な場合が認められる一方、実情によっては研究成果への便乗として許されないこともあります。これはパワハラという枠内では評価しにくいことがらですが、アカハラという観点から見れば、わかりやすいことがらといえます。

実際に起こった事例で、修士論文を学術雑誌に投稿するにあたり、研究室の准教授より、教授と准教授の共著とするよう求められたという事案で、それ自体が自尊心を傷つける行為であると裁判所において指摘されたものがあります(大阪地判平成22年6月24日)。

教育指導や組織運営上の必要があって行われているものかどうかは、双方の事情をふまえて分析しなければ、すぐには判別しにくい事案も少なくありません。しかし、セクハラやプライベートの干渉が問題となっている場合、事実が存在する限りは、通常、そういう行為をすることが、教育指導や組織運営上必要であったとは考えにくいといえます。このような場合には、ハラスメント防止の観点から、学内で適切に対処することが必要不可欠です。

誤ったアカハラ対応で新たなアカハラを招かないために

教育機関では、指導をする者と受ける者という立場があることから事実上の力関係が生じがちです。そのため一般の企業以上に、立場の優位性を背景にした取扱いが生じやすくなります。その現れ方は、教員と学生、教員同士だけでなく、教員と職員との関係など、教育機関に携わる人間関係に応じて様々です。

現にハラスメントが生じていることが見過ごされることによって、ハラスメントがエスカレートしていきかねないことは言うまでもなく、今日の教育機関においては、ハラスメント対応窓口を設置して、運用規程やマニュアルを整備することにより、対応体制が整えられなければなりません。しかし問題はむしろ、その運用面にあります。

アカハラが発生したことが判明した場合、厳しい対応をとるべきことは当然のことです。しかし、実際にアカハラがあったかどうかを認定することは、一筋縄ではいきません。事実の有無をどのようにして認定するのか、また事実が認定できたとして、それがアカハラにあたると評価できるのか、その上で、学内の規程に基づいて、どのような対処を行うべきか、どの過程に誤りがあっても、正しいアカハラ対応はできません。

本来アカハラがあったはずなのに、調査が不十分であって、アカハラの事実が埋もれてしまうと、被害者は泣き寝入りとなってしまいます。このような事態に至ることは、許されてはなりません。しかし、アカハラの認定をするということは、そうした行為をした対象者をいわば加害者として特定するという重い意味を持ちます。十分な調査と根拠を伴わないで加害者として特定することもまた、あってはならないことです。

他方、アカハラに対して、十分な調査と根拠を伴って、学内の規程に則った判断を行った以上、教育機関としては、毅然とした態度をとることが必要です。これは加害者に対する処分はもちろんのこと、被害者への対応としても同様のことです。ハラスメント被害者に対して必要な措置を講ずることは、事業所の法的義務ではありますが、被害者からの要求に対して無限に応じなければならないわけではありません。

たとえ被害者であったとしても、過度な要求や、要求自体は間違っていなくとも極端に過ぎる要求をすることまでが許されるという道理はありません。このような要求がなされることにより、対応にあたっている職員が疲弊するようなことがあれば、それ自体、被害者という事実上の優位な立場を背景にした、アカハラにさえなり得ると考えられます。

アカハラの申告を受けた教育機関としては、まずどのようにして事実認定を行うべきかという課題に直面しがちです。また一旦結論を示したとしても、当事者間に事実関係を巡る見解の相違があった際には、その結論に納得がいかない当事者側からの異論に悩まされることも少なくありません。あるいは、教育機関自身が示した結論に添いながらも、さらなる要求がエスカレートして、担当にあたる職員が疲弊するという例も見られます。

こうした運用上の問題へは、外部の機関を活用して対応にあたることが有用です。文部科学省の調査によれば、群馬大学、東京大学、関西学院大学等で、早くから外部の機関を活用した取り組みがなされていると報告されています。

京都は大学の街として全国的に著名であり、府下全域では、国公立・私立あわせて30校以上が設置されています。当事務所では、企業はもちろんのこと、大学からもハラスメント委員会の委員としてのご用命を承っています。それだけでなく、大学の判断や対応に対する不服の申立てに対しても、大学側の立場から対応に当たらせていただいております。

アカハラ対策のための対応体制づくりはもちろんのこと、大学をはじめとする教育機関を運営しておられる皆さまにおかれまして、実際に対応体制を運用していく上で生じた事実認定や当事者への対応にまつわるお悩みがございましたら、是非とも当事務所へご相談ください。

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