くるみん・えるぼし認定は事業主にとってもメリットがあります~「母性保護」の時代から女性従業員の「活躍」が推進される時代になりました~
目次
- 1 職場での女性の活躍推進は企業にとってメリットとなり得ます
- 2 女性の職場での活躍推進をする前提としての最低基準
- 2.1 ① 性別を理由とする差別の禁止(男女雇用機会均等法5条、6条)
- 2.2 ② 婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等(男女雇用機会均等法律9条)
- 2.3 ③ セクシュアルハラスメント対策(男女雇用機会均等法11条)
- 2.4 ④ マタニティハラスメント対策(男女雇用機会均等法11条の2)
- 2.5 ① 産前産後休業(労基法65条)
- 2.6 ② 妊産婦の労働時間、休日労働等の制限(労基法66条)
- 2.7 ③ 育児時間(労基法67条)
- 2.8 ④ 生理休暇(労基法68条)
- 2.9 ⑤ 保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保(男女雇用機会雇均法12条)
- 2.10 ⑥ 指導事項を守ることができるようにするための措置(男女雇用機会均等法13条)
- 3 「くるみん」認定制度
- 4 「えるぼし」認定制度
- 5 くるみん・えるぼし認定はA級ホワイト企業ライセンスです
職場での女性の活躍推進は企業にとってメリットとなり得ます
「夫は外で働き、女性は家庭を守るべきである」という考え方について、内閣府が長年に世論調査を行っていたことをご存じでしょうか。その結果によれば、古く1980年代の初頭では、約7割が「賛成」又は「どちらかといえば賛成」という回答をしていました。
ところが2000年代以降は、こうした考え方に対する賛成・反対の意見は拮抗しており、年度によっては、「反対」又は「どちらかといえば反対」という回答の方が多いこともありました。こうした世論をふまえると、今や「夫は外で働き、女性は家庭を守るべきである」という考え方は、必ずしも我が国の共通認識ではなくなったというべきでしょう。
1985年に男女雇用機会均等法が制定されて以後、こうした傾向は徐々に浸透していき、2016年4月には女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)が施行されてからは、政府が積極的に女性の就労を促進する施策を掲げるようになりました。
その施策の中には、企業が積極的な取り組みをすることで政府より「認定」を受けることにより、公共調達の加点評価、低利融資の対象となるなど、企業にとって具体的なメリットを伴うものも含まれています。
女性の職場での活躍推進をする前提としての最低基準
女性の職場での活躍の推進をする前提として、女性が女性であることを理由にして、男性と比較して活躍の場が狭められることがないようにされていなければなりません。そのために、男女雇用機会均等法では、次のような定めが置かれています。
① 性別を理由とする差別の禁止(男女雇用機会均等法5条、6条)
募集・採用、配置(業務の配分及び権限の付与を含む)・昇進・降格・教育訓練、一定範囲の福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新について、性別を理由とする差別と評価される取扱いをすることが禁止されています。
なお、賃金については、労働基準法によって、女性であることを理由として差別をすることが禁止されています(労基法4条、昭和22年9月13日基発第17号、平成9年9月25日基発第648号)。
② 婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等(男女雇用機会均等法律9条)
婚姻、妊娠、出産を退職理由として定めたり、婚姻を理由とする解雇が禁止されています。それ以外にも、妊娠、出産、産休取得等を理由として解雇や不利益な取扱いをすることも禁止されています。特に妊娠中・産後1年以内の解雇は、事業主が、妊娠等が理由でないことを証明しない限り無効とされますので注意が必要です。
③ セクシュアルハラスメント対策(男女雇用機会均等法11条)
いわゆるセクシュアルハラスメントを防止するため、雇用管理上必要な措置を行うことが、事業主の義務として定められています。
④ マタニティハラスメント対策(男女雇用機会均等法11条の2)
職場における妊娠・出産等に関する言動により妊娠・出産等をした女性労働者の就業環境を害すること、いわゆるマタニティハラスメントがないように防止措置を講じることが事業主の義務として定められています。
もともと労働基準法は、1999年まで、職場で働く「女性」を保護の対象とするという考え方を持っていました。典型的なものとしては、女性に対しては時間外勤務を命じることそのものの制限や、休日・夜間労働の原則的な禁止などがありました。これらはいずれも現在では廃止されています。
他方で女性の身体には、生まれながらにして、子を産むための生理的機能に寄った特徴ないし影響があります。現在の労働基準法等では、こうした身体の機能としての「母性」を保護の対象として、坑内業務の就業制限(労基法64条の2)や危険有害業務の就業制限(労基法64条の3)のほか、すべての事業所を対象に、次のような最低基準を設けています。
① 産前産後休業(労基法65条)
出産予定の女性から請求があった場合は、出産予定日含む6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内の就業をさせることができません(産前休業)。
また、実際の出産日を基準として、その翌日から起算して8週間が経過するまでの期間も、原則として就業させることができません(産後休業)。ただし、産後6週間を経過した場合、本人から請求があり、医師が支障ないと認めた業務については、就業させることができます。
この間の賃金は、就業規則等により無給とする旨の定めを置き、労働契約の内容となっている場合には、事業主に支払義務はありません。一般的には健康保険組合や共済組合などから支給される出産手当金の制度により、1日あたり標準報酬月額の3分の2の額の支給を受けることによって対応する例が多いといえます。
② 妊産婦の労働時間、休日労働等の制限(労基法66条)
妊産婦から請求があるときは、時間外・休日労働、深夜業をさせることはできません。フレックスタイム制度を採用している場合はこの制限がないという説明が一部でなされることがありますが誤解がないよう注意が必要です。妊産婦から請求があるときは、フレックスタイム制度を採用している場合でも、時間外・休日労働、深夜業をさせることはできません。
なお、変形労働時間制を採用している場合にも、妊産婦から請求があるときは、法定労働時間を超えて労働させることができないことについて留意が必要です。
③ 育児時間(労基法67条)
1歳未満の子どもを育てる女性から請求があったときは、休憩時間のほかに、1日2回まで、それぞれ少なくとも30分の育児時間を与えなければなりません。
④ 生理休暇(労基法68条)
生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、就業させることができません。これは一日単位に限らず、半日や時間単位でも、女性からの請求に応じて柔軟に対応することが求められます。
就業規則等でその日数や回数を制限することは認められておらず、また生理休暇取得のために医師の診断書等の厳格な証明を求めてはならないこととされています(昭和23年5月5日基発第682号、昭和63年3月14日基発第150号・婦発第47号)。
⑤ 保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保(男女雇用機会雇均法12条)
事業主には、妊産婦となった女性従業員が保健指導や健康診断を受ける時間を確保できるようにする義務があります。
⑥ 指導事項を守ることができるようにするための措置(男女雇用機会均等法13条)
妊娠中や出産後の女性従業員が、健康診断等での指導事項を受けたときは、事業主はこれを守れるように次のような措置を採る義務があります。
・ラッシュ時を避けて通勤できるようにするなど、妊娠中の通勤緩和措置等
・妊娠中の休憩を増やしたり、休憩時間を延長する等の措置
・重量物を扱う作業を免除したり、休業等をとらせる等、妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置
「くるみん」認定制度
2005年4月に施行された「次世代育成支援対策推進法」(いわゆる「次世代法」)では、少子化対策を目的として、企業に仕事と子育ての両立を支援する取り組みが推奨されています。「くるみん」認定はその一環として2007年からスタートした制度であり、子育て支援企業を公的に認定しようという仕組みです。京都府下では2021年までに上場企業を中心に約70社が認定を受けています。
次世代法に基づき、各府省等が総合評価落札方式または企画競争による調達を行うときは、公共調達において、ワーク・ライフ・バランス等を推進する企業を積極的に評価するよう、ワーク・ライフ・バランス等推進企業を評価する項目を設定することとされています。
くるみん認定企業に対しては、各府省等が総合評価落札方式または企画競争による調達によって公共調達を実施する場合、加点評価するよう国の指針において定められていますので、認定を受けることにより、公共調達の受注機会が拡大される可能性があります。
くるみん認定では、ワーク・ライフ・バランス等の推進を重視していることから、認定を受けるために、女性労働者の育児休暇取得率が75%以上であること、残業時間の平均が各月45時間以内・月平均60時間以上となっていないことなど、働き方の改革が相当に進んでいることが要件となります。
加えて、男性の育児休業等の取得率が7%以上、育児休業等・育児目的休暇取得率が15%以上であることなどの要件も満たすことが求められており、認定を受けるためには育児休業の推進も同時に達成しておくことが必要となります。
この基準は、令和4年4月1日以降、男性の育児休業等の取得率について10%以上、育児休業等・育児目的休暇取得率について20%以上と引き上げられますが、令和6年3月31日の間の認定申請は、現行の基準の水準でも基準を満たすとする特例措置がありますので、認定を受けるのであれば、この特例期間内がチャンスということになります。
なお、さらに高い要件を満たした場合には、「プラチナくるみん」認定を受けることができ、公共調達の場面でもさらに優遇が受けられる可能性があります。京都府下においては、プラチナくるみん認定を受けている企業は、2021年末までで15社に満たないので、認定が受けられてば企業のイメージ向上への大きなインパクトとなります。
「えるぼし」認定制度
くるみん認定とあわせて押さえておきたい制度に「えるぼし」認定というものがあります。えるぼし認定は、2016年4月に施行された女性活躍推進法に基づく制度で、国の定めた基準を満たす企業を女性の活躍推進の状況などが優良な企業としてに認定する仕組みです。京都府下でも2021年末までに、中堅企業・中小企業を含む約25社が認定を受けています。
えるぼし認定を受けた企業についても、ワーク・ライフ・バランス等を推進する企業を積極的に評価するという見地から、公共調達にあたって加点評価を受けることができます。また、日本政策⾦融公庫の「働き⽅改⾰推進⽀援資⾦」を通常よりも低金利で利用することもできるので、公共機関の受注機会の拡大のほか、資金調達の面でもメリットを得ることができます。
えるぼし認定を受けるためには、概要として、
① 男女別の採用競争倍率が同程度であること
② 新卒採用された正社員の平均継続勤務年数比が男女間一定割合以上であること
③ 直近の事業年度において、雇用管理区分ごとの労働者の時間外・休日労働時間の合計時間数の平均が各月ごとに全て45時間未満であること
④ 管理職の男女比率が一定割合以上であること
⑤ 直近の2事業年度において、女性の雇用促進のために所定の施策のうち1項目以上(大企業の場合は正社員登用制度を含む2項目以上)の実績があること
という要件が定められており、達成度合により3つの段階があります。
また、くるみん認定と同様、さらに高い要件をみたした場合には、「プラチナえるぼし認定」を受けることができ、同じく公共調達の場面でもさらに優遇が受けられる可能性があります。プラチナえるぼしの制度は、2020年6月にスタートしたばかりであり、京都府下においては2022年末までに認定を受けている企業はまだありません。認定を受けることができれば、社会的評価はかなり高くなるといえます。
くるみん・えるぼし認定はA級ホワイト企業ライセンスです
企業で女性が活躍することは政府の重要な施策となっており、達成できた企業には、公共機関の受注機会の拡大につながるメリットが与えられています。くるみん・えるぼし認定を受けるためには、残業時間の縮小、育児休業の積極的な普及、女性従業員の重要なポストへの配置など、達成すべき課題が多くあります。
今や労働基準法や男女雇用機会均等法上の母性保護は、知っていて当然、守られていて当たり前という時代となりました。しかし、実務的には具体的な運用が難しい場面も少なくありません。当事務所は、使用者側の観点からの労務問題に注力しており、母性保護規定の整備運用はもちろんのこと、くるみん・えるぼし認定のような新しい労働施策への対応についてもご相談に応じております。最新の労務問題についてのサポートは、是非とも当事務所にご用命ください。
京都総合法律事務所は、1976(昭和51)年の開所以来、京都で最初の「総合法律事務所」として、個人の皆さまからはもちろん、数多くの企業の皆さまからの幅広い分野にわたるご相談やご依頼に対応して参りました。経験豊富なベテランから元気あふれる若手まで総勢10名超の弁護士体制で、それぞれの持ち味を活かしたサポートをご提供いたします。
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