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弁護士が解説!『育児・介護休業法』の概要と2022年4月順次施行の『育児・介護休業法改正』で企業側の対応方法とポイントをご紹介。男性育休の拡大で何が変わる?

「寿退職」や「介護離職」という言葉があったように、かつて「結婚・出産・子育て」や「介護」は、「働くことと」と「二者択一構造」にありました。しかし、「家庭」と「仕事」はもともとどちらも同じく生活の一部であって、本来、どちらかを選ぶべきものではありません。
  
とりわけ少子高齢化が進み、人口減少時代を迎えた我が国においては、もはや「家庭」と「仕事」とを分業できるだけの人的な余力もありません。そのため現代社会では、誰もが「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」を意識した働き方を余儀なくされています。
  
こうした世の中の変化にあわせて、育児・介護休業法(正確には「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といいます。)は1992年(平成4年)4月1日より施行されました。
  
その後、いわゆる「働き方改革」が積極的に推進されるにつれて、育児・介護休業法が相次いで改正されました。直近の改正では、これまでもっぱら従業員側の選択に委ねられていた育児・介護休業の取得について、事業主がこれを積極的に推進するよう、法律的に義務付けられることとなり、育児・介護休業のあり方が根本的に変わろうとしています。
  
ここでは、育児・介護休業法の概要と直近に行われた2021年(令和3年)6月の改正(2022年(令和4年)4月より順次施行)について、事業主として気をつけておかなければならない点について、解説をいたします。

育児・介護休業法のあらまし

かつてより、結婚・出産・子育ては、若い女性の離職理由として高い割合を占めているといわれており、2017年(平成29年)に公表された労働政策研究・研修機構(JILPT)の統計によれば、入社3年目までで離職した新卒女性の3割以上が結婚・出産を理由としているとされています。
  
また、総務省「就業構造基本調査」によると、同じく2017年(平成29年)に介護・看護を理由に離職した人は、全国で9万9000人に及ぶとされており、こちらは50から60代の女性に多い傾向がみられます。
  
育児・介護休業法は、仕事をやめることなく出産・子育てや介護をしやすくすることをめざして、事業主に対し、育児休業・介護休業の制度を設けることを義務付け、従業員が実際にこれらを取得しやすくするよう、事業主がとるべき措置を定めています。

育児休業制度

育児休業は、男女問わず、1歳に満たない子を養育するために取得できる休業制度です。
1歳に満たない子を養育したいという希望があれば、それ以上に理由を問わずに取得でき、祖父母等、他に面倒をみてくれる人がいないであるとか、保育所等へ入所できないなどの要件がないことに注意が必要です。
  
保育所等へ入所できない等の理由は、育児休業を取得できるかどうかの要件ではなく、その期間を延長できるかどうかの要件となります。こうした事情があれば、子が1歳6ヵ月に達するまで延長することができ、そでも保育所等に入所できない等の事情があれば、さらに2歳まで延長することができると定められています。
  
育児休業は、幅広い範囲で比較的長い期間取得できるので、事業主側としては、従業員から急にこれを取得したいとの申し出がなされると、今後の業務に支障が生じることがあり得ます。しかし、育児・介護休業法では、業務に支障が生じることを理由に育児休業の取得を制限したり、取得するタイミングを変更するよう求める仕組みは用意されていません。
  
ただし、育児休業を取得したいと申し出る時期については制限があり、休業開始予定日の1ヵ月前まで(1歳6ヵ月、2歳までの延長の場合は2週間前まで)に書面等で事業主に申し出ることが必要です。これに遅れて申し出があった場合、事業主は必ずしも従業員の希望日からの育児休業の取得を認める義務はなく、最大で申出日の翌日から1ヵ月先までの日を開始日として指定することができます。この場合でも、育児休業の取得そのものを拒否することはできないので注意が必要です。
  
また、育児休業を取得できるのは、育児・介護休業法の施行規則で定められた特別の例外事情がない限り、子1一人につき連続した1回の期間についてのみであり、何回かに分割して取得することはできません。ただし、これについても遅くとも2022年(令和4年)中には、分割して2回まで取得できるよう緩和されます。
  
一旦、取得した育児休業の期間の途中で職場復帰することは、従業員の自由ですが、この場合でも、再度、育児休業を取得することはできません(改正法施行後は、残り期間がある限り、2回目の取得をすることは可能と見込まれます)。ただしこれには例外があり、子の出生日後、8週間以内に男性が最初の育児休業を取得して終了したときは、特別な事情がなくても、再度の育児休業の取得が可能となります。この制度については、厚労省が公式に「パパ休暇」と呼称して、男性育休の取得推進を呼びかけています。
  
なお、父母ともに育児休業を取得する場合には、育児休業の期間を子が1年2ヵ月までの間の1年間として取得することができるという特例があり、こちらについても厚労省が公式に「パパ・ママ育休プラス」と呼称しています。

子の看護休暇制度

育児休業とは別に、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、病気、けがをした子の看護又は子に予防接種、健康診断を受けさせるために必要があるときは、1年に5日(子が2人以上の場合は10日)まで、子の看護休暇を取得することができると定められています。これは育児休業とは別個の制度となります。
  
子の看護休暇は、育児休業と異なり、対象となる子がいわゆる未就学児であることや、子の看護等の必要性がある場合に限られていることに注意が必要です(ただし、病状等の軽重は問わないので、たとえば38度以上の発熱などの要件を課すことはできません)。
  
また、子の看護休暇は連続してまとまって取得しなければならないものではなく、必要が生じた都度、取得できるものであり、かつ必ずしも1日単位ではなく、時間単位で取得することもできると定められています。ただし、長時間移動を伴う職種や、流れ作業・交替制勤務など、時間単位での取得が困難と認められる業務に従事する者は、労使協定の締結で1日単位の取得に限定することができます。

介護休業制度

介護休業は、要介護状態にある対象家族(事実婚を含む配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹及び孫)を介護する必要が生じた労働者において、対象家族1人につき、通算93日までの休業を取得することができるという制度です。
  
ここにいう「要介護状態」とは、「負傷、傷病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」をいい、介護保険の場面で用いられている「要介護2」以上の状態であるかどうかを中心に判断されます。ただし、あくまでも「要介護2」以上というのは中心的な基準であり、これに満たなければ、介護休業の取得を拒否できるというものではないので注意が必要です。
  
介護休業は育児休業と異なり、連続した期間にまとまって取得する必要はなく、対象家族1人について、通算93日までであれば、3回まで分割して取得することが可能です。この日数は、年度や介護を必要とするに至った事情が異なることによってリセットされるものではなく、文字どおり、対象家族1人について通算93日ということになります。
  
介護休業についても、申出期間については制限がありますが、育児休業よりは短く、休業開始予定日の2週間前までに、書面等により事業主に申し出ることが必要です。また、休業狩猟予定日の2週間前までに申し出ることにより、93日の範囲内で申出毎に1回に限り、当初申し出た期間を延長することも認められています。

介護休暇制度

要介護状態にある対象家族の介護その他の世話を行うために必要がある労働者は、介護休業とは別に、1年に5日(対象家族が2人以上の場合は10日)まで、休暇を取得することができると定められています。
  
介護休暇は介護休業とは別の制度なので、介護休業を取得したからといって、取得が制限されるものではありません。また「介護」だけでなく、「その他の世話」を行うためにも取得が可能であるので、たとえば対象家族の通院等の付き添い、介護サービスの提供を受けるための契約その他、必要な手続を行うためにも取得することができます。
  
介護休暇についても、子の看護休暇同様、必ずしも1日単位ではなく、時間単位で取得することができるものと定められており、時間単位での取得が困難と認められる業務に従事する者について、労使協定の締結で1日単位の取得に限定することができるのも、子の看護休暇と同じです。

2021年(令和3年)6月改正の概要

これまで数回にわたって改正されてきた育児・介護休業法ですが、最近では「パパ休暇」「パパ・ママ育休プラス」の制度に代表されるように、男性による育児休業の取得推進に向けた改正が主なポイントとなっていました。2021年(令和3年)6月の法改正もその一環であり、ポイントをまとめると次のとおりです。

ポイント1:「男性版産休制度」としての出生時育児休業制度の新設

妊娠・出産をした女性従業員については、産前6週間については申出により、産後8週間については法律の定めにより、いわゆる産前産後休暇の制度があることはよく知られています(労基法65条)。今回の法改正の一番のトピックは、男性についても、子が生まれたことを理由にして、育児休業を取得できるようになったという点にあります。
  
新しい制度は「出生時育児休業制度」と呼ばれており、子の出生後8週間以内に4週間までの期間について、育児休業を取得することができるこという、いわば「男性版産休制度」ともいうべき仕組みとなります。出生時育児休業制度は、これまでの育児休業制度とは別個のものとなりますので、出生時育児休業と育児休業制度の両方を取得することもできるということになります。
  
子の出生後8週間以内の期間であれば、4週間の休業期間をまとまって取得する必要はなく、2回までであれば、分割して取得することができることになっています(これとあわせて、これまでの育児休業も2回まで分割して取得することができるものと改められます)。
  
また、申出期限についても、これまでの育児休業よりも近い時期で差し支えないとされており、これまでの育児休業が1ヵ月前までに書面等により事業主に申し出ることが必要であるとされていたことに対し、出生時育児休業制度では、休業の2週間前までに申し出ることで足りるとされています。ただし、今回の法改正で義務付けられる内容を上回る取り組みの実施を労使協定で定めている場合は、1ヵ月前までとすることができます。
  
出生時育児休業制度が普及すると、最前線で活躍している世代が比較的長い期間にわたって休業をするという例が増える可能性があります。そのため、出生時育児休業期間中であっても、どうしても仕事に出てきて欲しいという事態も生じ得ます。このような場合に備えて、労使協定を締結することにより、労働者が合意した範囲で、出生時育児休業期間中であっても、臨時に仕事に出てきてもらう余地が制度上用意されました。労使協定で定めておくべき内容と具体的な運用方法としては、次のようなものが予定されています(ただし、厚生労働省令で休業期間中の労働日や労働時間数について、上限が定められる見込みです)。
  
①労働者が就業してもよいとする条件を申出の上、労使協定で明示
②事業主から、その条件の範囲内で候補日・時間を提示
③労働者の同意を得て、その範囲内で就業
  
この法改正の具体的な施行時期は明示されていませんが、2022年(令和4年)中には、政令で具体的に指定される予定です。

ポイント2:雇用環境整備、個別の周知・意向確認措置が事業主の義務に

育児休業は法律上の制度ですので。従業員において、これらの制度があることを把握した上で、実際に取得したいと考えたときには、自らの判断で事業主に対して申し出ることが原則的なあり方であるといえます。
  
厚労省による「雇用均等基本調査」によれば、女性による育児休業の取得率はすでに8割を超えている一方、男性については、2018年度(平成30年度)時点でわずかに6%程度にとどまっているとの統計結果が示されています。さらに10年前の2008年度(平成20年度)時点では、わずか1%程度であったとされているので、確実に増加傾向にあります。
  
今回の法改正は、主として男性による育児休業の拡大を目的として、事業主に対し、育児休業が取得しやすいよう、事業主の側から従業員に対して、育児休業の周知を行い、妊娠・出産の申出があった従業員に対しては、育児休業を取得するかどうか、事業主側から意向確認を行うべきことが法律上の義務として定められました。これについては、2022年(令和4年)4月1日からすべての事業主に向けて施行されます。
  
特に従業員数1000人を超える企業については、育児休業等の取得の状況を公表することも義務付けられ、そこでは特に男性従業員について、「育児休業等の取得率」又は「育児休業等と育児目的休暇の取得率」が明記されていなければならないとされる予定です。これについては、2023年(令和5年)4月1日より施行されます。

ポイント3:育児休業の分割取得が可能に

もともと育児休業の制度は、まとまった期間を連続して取得することが原則とされており、子1人につき、1回という制限がありました。また、その期間についても、原則的に子が1歳に達するまでとされており、保育園等に入所できない等の理由で1歳半や2歳までとする場合でも、当初の育児休業に引き続いて取得すべきものとなっていました。
  
今回の方改正では、出産時育児休業とは別に、従来からある育児休業についても、2回まで分割して取得することができるようになり、あわせて1歳以降に育児休業期間を延長する場合でも、延長後の育児休業の開始日は、当初の育児休業期間の終了日から間を開けた日としても設定できる場合があることとされました。
  
これらの点についての法改正の施行時期は明示されていませんが、2022年(令和4年)中には、政令で具体的に指定される予定です。

対応を怠ることによる事業主側のリスクについて

育児休業や介護休業が話題になりはじめたのは最近のような印象があるかもしれませんが、実際にはその歴史は1992年(平成4年)からと比較的長く、女性による育児休業の取得率に限っていえば、すでに8割を超える定着率であるといわれています。地元京都の実情としては、特に中堅企業を中心に、育児休業を取得した従業員は未だかつていない、という例も少なくないと思います。しかし、我が国の統計上の実情からすると、育児休業については、むしろ取得する土壌が整っていないということ自体が、時流から離れているとみられかねません。
  
京都の有効求人倍率は1.5倍程度といわれており、未だ求職者数の方が求人を上回っているところですが、統計上の数字とは反対に、中堅企業の人手不足は肌感覚による実感として明らかです。求職者のうち、長期雇用を前提とした企業のニーズに耐える人材は数字に現れているほど多くはなく、企業自体がそうした人材に選ばれるよう、態勢を整えていなければなりません。
  
最近では、ワーク・ライフ・バランスを重視する観点から、賃金や労働時間だけでなく、休日や休暇をしっかりとれる態勢が整っているかどうかも、求職者が応募する企業を選ぶ上での重要な条件となっています。育児休業や介護休業は、事業主にとっては負担ではあるものの、一人の従業員について、限られた時期についてのみ、生じ得るにとどまるものであることから、他の労働条件を向上させることよりはハードルは比較的低いものといえます。
  
そもそも育児休業や介護休業は、法律によって定められた制度であることから、「導入しない」という選択肢はもともとありません。それにもかかわらず、これらを運用する仕組みができていない企業は、すでに時流から離れているとのレッテルを貼られかねず、求職者から選ばれないだけでなく、従業員も定着しないという深刻なリスクを招きかねません。
  
育児休業や介護休業を取得し又は取得しようとしたことによって、不利益な取り扱いをすることは法律で禁止されていますが、万が一、会社側の態勢不備により、これらをスムーズに取得させることができず、従業員との間でトラブルになった際には、事情によっては、ハローワークから求人拒否を受けることも今後はあり得るとされています。
  
今後、育児休業はもとより、高齢化社会の高まりにより、介護休業が必要となる従業員も増えてくることが予想されます。育児休業・介護休業への対応態勢の不備は、人材定着面において、深刻なリスクを伴います。

育児・介護休業法への対応には弁護士の活用をご検討ください

育児・介護休業法は、様々な制度が入り組んでおり、今回紹介したもの以外にも、育児・介護のための所定外・時間外労働・深夜業の制限、所定労働時間短縮の措置、育児・介護休業取得のための労働者への配慮に関する措置など、事業主がとるべき様々な措置についての定めがあります。
  
これらについては、まず就業規則や育児・介護休業規程等により、社内での運用ルールを定める必要があり、かつ、それらがいずれも、育児・介護休業法の定めを下回るものとならないようにする必要があります。また、育児休業や介護休業については、法改正が頻繁に行われており、その都度、新しい制度が継ぎ足されたり、従来の制度が改められるなど、ますます複雑さを増しています。
  
京都総合法律事務所では、企業側の立場からの労働法務に注力しており、育児休業や介護休業はもちろん、幅広い労働法務分野について、法的サポートを提供させていただける態勢を整えています。とりわけ、万が一、従業員との間で紛争が生じた際に、裁判例等もふまえた解決方針をご提案の上、対応させていただけるのは、弁護士ならではの強みといえます。
  
育児・介護休業法へのご対応についてお悩みの企業経営者の皆さまにおかれましては、創業以来40年以上にわたり、労働法務分野に注力をしている京都総合法律事務所に、是非ともご相談ください。

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