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「ハラスメントを受けています!」そのとき会社がやるべきこと、やってはいけないこと

なぜ今、ハラスメント対策が必要なのか

従業員と雇用主との間でのトラブルの件数は年々増えています。全国の労働局や労働基準監督署には、「総合労働相談コーナー」が設置されていますが、そこに寄せられる相談のうち、実に3割以上が職場で「いじめ」や「嫌がらせ」を受けたという申出だといわれています。

世に言う「ハラスメント」とは、要するに「いじめ」や「嫌がらせ」のことです。職場において、不愉快な扱いを受けたり、尊厳を傷付けられたと感じる従業員が年々増えていることは数字の上で間違いのない事実です。

職場において、従業員の尊厳が理不尽に踏みにじられるようなことがあってはならないことは当然です。しかし、仕事は楽しいことばかりではなくて、思いどおりにならないことも少なくありません。従業員が「嫌だ」「やりたくない」と思ってしまえば、会社として必要な業務命令や注意指導の一つもできないとあっては、事業は立ちゆかなくなってしまいます。

「ハラスメント」対策は、従業員が安心して働ける職場づくりを目指すことが目的です。しかし、業務を行うためにどうしても必要な事情があれば、合理的で社会常識も反しない限度で、従業員の思いとは違う対応を求めなければならない場合もあり得ます。ハラスメントを受けていると「感じる」従業員が年々増えている中では、この線引きをできるだけ適正に行うことの重要性もまた、増大していっているといえます。

3つのハラスメントにおける本質的な違い

法律による定義があるハラスメントとしては、次の3つのものがあります。

パワーハラスメント
職場において行われる ①優越的な関係を背景にした言動であって ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより ③労働者の職場環境が害されるもの
(関連記事:もし社内でパワハラが起きたら?)

セクシュアルハラスメント
職場において行われる 労働者の意に反する性的な言動に大差売る労働者の対応により、労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること
(関連記事:それってセクハラです!)

妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント
①女性従業員が妊娠・出産したこと等を理由として、もしくは、②労働者が育児休業・介護休業等の申出をし、又は育児休業等をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをすること
(関連記事:育児・介護休業法の概要)

これらの行為を受けていると従業員が「感じた」場合に、すべてがハラスメントに当たるというわけではありません。たとえ従業員が不快に思ったとしても、業務を行うためにどうしても必要な事情によって会社から行われた業務命令や注意指導であれば、その内容が合理的で社会常識にも適っている限り、従業員はこれに従わなければならないからです。

職場において、業務上必要かつ相当な範囲で行われた対応は、もともとハラスメントには当たり得ません。たとえば、上司から厳しい言葉で注意指導を受けたり、一時的に業務量が増えたり、または能力が認めてもらえなくて不本意な仕事しか任せてもらえないということがあったとしても、それが業務上必要かつ相当な範囲のものであれば、パワーハラスメントには当たりません。

ところが、セクシュアルハラスメントの場合には、前提からして事情が違ってきます。男女の身体的・心理的な性差によって、違った対応をすることが必要かつ合理的な場合はあり得ますが、それ以外で、性的な言動や性差に着目した対応をすること自体、業務上必要な場面など、ほとんど考えられないためです。

また、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントについては、子育てや介護を尊重するため、法律が用意した制度をきちんと定着させようという政策的な目的によるものです。このうち、妊娠・出産・育児休業等を取得しようとしたり、現に取得したことによって、会社が不利益な取扱いをすることは、特にマタニティハラスメントとも呼ばれていますが、これはどちらかというと政策的な目的によるものなので、不利益を受けた従業員が不快に感じるかどうかもさることながら、まずもって法令が何を禁止しているのかということに従った対応をしなければなりません。

このように、一口にハラスメントといっても、特に業務上の必要性との関係での線引きについては、本質的な違いがあります。ハラスメント対策は、こうした考え方の違いを意識して行わなければ、間違った方向に進みかねません。

ハラスメント事案は「説明できる判断」を目指すことが肝心です

職場でのハラスメント対策をすることは、法律によって雇用主の義務と定められています。雇用主は、ハラスメントを受けたと思う従業員が相談できる窓口を設置して、これをふまえた適切な対応ができるよう、体制を整備しておかなければなりません。

一般的に採用されている方法は、社内の総務部門や人事部門に相談窓口となる責任者を置いて、ハラスメントを受けたと思う従業員は、まずその責任者宛に何らかの方法で相談を行うという仕組みです。この方法の場合、ハラスメントを受けたという申告をする従業員のことも、ハラスメントを行ったとされている従業員も、どちらも顔見知りであることも少なくありません。そのため、細かい調査をしなくとも、実際にハラスメントがあったのかなかったのか、感覚的にわかるということもあるかもしれません。しかし、このように結論を先取りしたかのような対応をすることは、避けなければなりません。

ハラスメントの問題は、結局は当事者間の関わり方に問題があるからこそ発生します。中には、第三者的な視点からアドバイスを受けることによって、関係が改善されるというケースもあるかもしれません。しかし多くの場合は、そういう関わり方をしたことには、双方ともに言い分があるわけで、どちらかが正しくて、どちらかが間違っていた、という判断を受けた場合、間違っているといわれた側には、どうしても納得いかないところが残ります。そのため、相談窓口の対応者が直感的な対応をしてしまうと、どうしても不満の種が残ってしまいかねません。

とはいえ、当事者双方の思惑が違う出来事を解決するためには、どこかで原因となった事情を改善しなければなりません。ハラスメント申告に対して、当事者のどちらもが納得できる解決が図れれば一番良いことは言うまでもありませんが、そうはなかなかうまくはいきません。たとえどちらかに不満が残ろうとも、会社としての判断を示して、その判断を前提にした対応をしなければならないこともあると心得なければなりません。

ハラスメントに関わる問題が生じた場合で、従業員と会社との間でトラブルになるのは、従業員に不満が残ったときです。誰にも不満が残らない解決ができれば一番良いのですが、特にハラスメントを受けたという申告に対して、ハラスメントには当たらないという判断をするような場合には、高い確率でハラスメントの申告をした従業員に強い不満が残ります。これはどうしても避けられないことといわざるを得ません。

ここでもし、ハラスメントの申告をした従業員に配慮をしすぎて、実際にはハラスメントとまではいえないのに、ハラスメントがあったと認定することは禁物です。そういう対応をしてしまうと、ハラスメントの申告をされた従業員にいわれのない加害者としての罪をかぶせてしまうことになるからです。

ハラスメント申告があったとき、相談窓口の担当者である程度の判断がつきそうなものであったとしても、その判断に不満が残る従業員が生じることを常に念頭に置く必要があります。だからといって、不満が出てきそうな従業員に合わせるような対応をしてはなりません。ハラスメント申告に対する判断は、なぜそういう判断になったのか、事情を知らない第三者にも説明できるよう、相応の資料や根拠を伴って行う必要があります。

ハラスメント事案への対応方法

ハラスメント申告から判断までの手続をルール化すること

法律による義務化によって、どこの事業所でもハラスメント相談窓口を設けていることが一般的になりました。しかし、窓口を設けるだけでは不十分で、この窓口で受け付けたハラスメント申告に対しては、会社が何らかの判断をして、その判断に基づいた対処を行うことで、はじめて体制が整っているということができます。ハラスメントの被害を受けたと考えている従業員からすると、相談窓口は単に相談を受け付けるだけでなく、何らかの解決を手助けしてくれる部門だと期待していることでしょう。

とはいえ、ハラスメントの申告があったからといって、本当に申告どおりの事実があったのか、事実があったとして、それがハラスメントに当たるのかは、必ずしも申告してきた従業員の思いどおりになるわけではありません。それでも被害を受けていると考えている従業員は、相談窓口が自分のために何とかしてくれるはずだ、と期待していることが少なくありません。そのため、相談窓口に対して、こうして欲しい、ああして欲しいなどという要望を寄せてくることさえあります。

こういう事態に対処するためには、相談窓口の役割がどういうものであり、ハラスメント申告があったときには、どのような手順で対応をしていくのかを社内のルールとして明確に定めておくことが必要不可欠です。たとえハラスメント被害を受けていると考えている従業員であっても、社内での出来事への対処については、社内のルールに従うべきです。もし、そういうルールが定まっていないと、ハラスメント被害を受けている従業員から際限なく要望があったとしても、どこからどこまでを受け入れるべきか、基準が定まらないので、たちまち対処に困ることとなってしまいかねません。

受け付けたハラスメント申告へは迅速な判断を目指すこと

ハラスメント申告に対しては、実際に申告どおりの事実があったのか、仮に事実があったとして、そういう行為をした従業員に対して、ハラスメント事案としての対処をすべきなのかという会社としての判断をしなければなりません。そのためにはまず、事実の調査が必要不可欠です。事実の調査は、当事者双方からの事情聴取のほか、裏付けとなるべき客観的な資料を集める方法によって行うことが一般的ですが、関係者のプライバシーには十分に配慮が必要なので、調査の範囲を広げすぎることも考えものです。

しかし、事実があったのかなかったのか、裏付けになる客観的な資料が十分にそろっているという事案はめずらしく、判断に悩む場合も少なくありません。それでも会社として最終的な判断は下さなければなりません。調査に時間がかかりすぎると、ハラスメント申告をした従業員の不満につながりやすくなりますので、可能であれば1ヶ月以内、どれだけ長くとも、3ヶ月以内には判断に至ることができるよう、努めることが望ましいです。

会社の判断は最終決定として対処すること

できる限りの調査を経て、相応の根拠を伴って行った会社の判断は、最終決定として行われなければなりません。場合によっては、ハラスメント申告をした従業員、された従業員のどちらかから、不満が述べられるかもしれませんが、不満がある限り、調査や再検討を続けなければならないというのでは、いつまでも対処ができなくなってしまいます。

もちろん、手続をより公正なものとするためには、不服申立の方法を用意しておくということも考えられますが、同じ組織で同じ資料に基づいて判断をしても、結論が変わることはあまり考えられません。不服申立という手続もさることながら、調査の方法と判断に至る理由の相当性の確保にこそ重点を置くべきです。

相応の根拠を伴って下した会社の判断は、それ自体が不合理な内容であってはなりませんが、そうでもない限り、たとえ不満があったとしても、従業員として尊重すべきものといえます。会社としては、ハラスメントがあったと判断した場合には、速やかに行為者に対して、懲戒処分等も含めた対処を行うべきです。もし、ハラスメントがなかったと判断した場合でも、行為自体に問題がなかったとまではいえないと判断した場合にも、行為者に対して、必要かつ合理的な注意指導等が行われるべきでしょう。

一方で、ハラスメント申告自体が必ずしも適切なものではなかったという判断に至ることもあり得ます。このような場合でも、ハラスメント申告そのものを理由として注意指導の対象としたり、まして懲戒処分の対象とすることは、避けなければなりません。ハラスメント申告をしたことそれ自体を理由として不利益な取扱いをすることは禁止されているためです。しかし、そのような申告に至った背景には、何らかの問題があるはずです。もしそこに、ハラスメント申告をした従業員自身の問題があるのならば、その問題点自体に着目して、将来的な注意指導の対象としていくことも考えなければなりません。

ハラスメント対応には専門家によるサポートが必要です

効果的なハラスメント対策を行うためには、何よりもハラスメントが起きない職場づくりを目指すことが重要であることは当然です。しかし、ハラスメントの本質は、人の気持ちの問題なので、どれだけ体制を作ったとしても、どうしても行き違いは生じてしまいます。そのため、ハラスメント対策では、ハラスメントの申告や、現にハラスメントが起きてしまった場合にどうするかという対応ができることこそが重要です。

ハラスメント対応のためには、

①ハラスメント申告についての社内規程の整備
②ハラスメント申告があった場合の事実の調査
③事実の調査に基づく会社としての判断
④会社の判断に従った当事者への対応

が漏れなく行われなければなりません。そのためには、法令や裁判例の理解をふまえた事例への当てはめが必要不可欠となります。

当事務所では、地元である京都をはじめとする多くの企業よりご用命を受けて、企業側の観点からの労務問題へ注力をしています。ハラスメント対策としては、予防のための従業員研修のほか、ハラスメント申告に備えての規程整備も承っています。

また、現にハラスメント申告があったり、ハラスメントが起きてしまった際の事実調査や会社としての判断のためのハラスメント委員会への参与についても法令や裁判例の理解をふまえたサポートをご提供申し上げております。それ以外にも、ハラスメント申告を受け付けるための外部通報窓口としての対応も可能です。ハラスメント対応へお悩みの企業の皆さまにおかれましては、是非、弊所にご相談ください。

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