ハラスメント対策を行う際のポイントと注意点を弁護士が解説
近年、職場におけるハラスメントは、個人の尊厳を傷つけるだけでなく、企業の生産性を低下させ、組織全体の健全性を蝕む深刻な問題として認識されています。多くの企業が対策に乗り出していますが、その対応は必ずしも十分とは言えません。法的な義務を果たすだけの形式的な対策では、根本的な解決には至らないのが現状です。
目次
職場の主要なハラスメントと判断ポイントについて
ハラスメント対策を講じる上で、まずその種類と定義を正確に理解することが不可欠です。ここでは、職場で問題となりやすい主要な4つのハラスメントと、それらを判断するための重要な視点について解説します。
1. パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメントとは、職場における優越的な関係に基づいて、業務上適正な範囲を超えて、身体的または精神的な苦痛を与えることなどを指します。重要なのは、「業務上適正な範囲」で行われる指導や命令はハラスメントには該当しないという点です。こういう対応を受けた側がハラスメントだと感じればハラスメントだという考え方は、パワハラについては必ずしも正確とはいえません。
例えば、業務上の不備を具体的に指摘し改善を求めるために叱ることは、適正な指導であってハラスメントにあたるとは限りません。同じ叱責であっても、人前で大声で罵倒したり、「消えてしまえ」「お前は頭が悪い」など、具体的な行動ではなくその従業員自身を否定する言葉を使ったりすることは、精神的な攻撃としてハラスメントに該当することがあります。不適切な行動を注意して改めるよう求めているのか、人間自身を攻撃しているのかが区別の目安といえます。
2. セクシュアルハラスメント(セクハラ)
セクシュアルハラスメントは、職場において行われる性的な、あるいは性別役割を前提にした言動を指します。パワハラと大きく異なるのは、業務を遂行する上で、性的ないし性別役割を前提にした言動を行うべき業務上の必要性自体が存在しない点です。身体への不必要な接触や性的な冗談などの直接的な性的言動だけでなく、「女性だからお茶汲みをすべき」「男性だから厳しい言われ方をしても当たり前」といった性別のみを理由として行われる他方の性別と区別した言動は広くセクハラに含まれることがあります。
3. 妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント(マタハラ等)
これは、女性労働者の妊娠・出産や、男女を問わず労働者の育児休業・介護休業といった制度の利用を理由とする不利益な取り扱いを指します。マタハラに該当するかどうかの判断は、その言動が法律により定められた制度の利用を阻害するかどうかという点にありますので、実際に不利益な取り扱いをしなくとも、そういうおそれがあることを示唆する場合も含まれます。例えば、育児休業の取得を相談した従業員に対して、育児休業を取得した場合に降格や解雇を示唆すると、結果的に降格や解雇をしなかった場合でも、マタハラに該当することがあります。
4. カスタマーハラスメント(カスハラ)
カスタマーハラスメントは、顧客や取引先からのクレームや言動が、その要求内容に照らして、手段や態様が社会通念上不相当なものを指します。企業には顧客の要望に応える社会的な期待が寄せられていますが、顧客の要望といえども、不当または不相当なものに応じることを強いられる義務は全くありませんし、業務上の必要性もありません。クレームの内容自体が言いがかりである場合はもちろん、企業側に落ち度がある場合であっても、だからといって長時間の拘束、土下座の要求、暴力や暴言などを行うことは、どれもカスハラにあたります。
ハラスメントかどうかの判断ポイントとは
これらのハラスメントを判断する上で、共通する2つの重要な視点があります。
- 「業務上の必要性」の有無
すべてのハラスメントに共通するのは、その言動に業務上の必要性があるか否かです。業務上必要な対応は適切に実施されるべきであり、逆に業務上不要な対応は行うべきではない、ということがハラスメント問題の本質であるといえます。
- 「プレイ」か「プレイヤー」か
指導や注意が、対象者の「行動(プレイ)」に向けられているのか、それともその人の人格や存在そのものである「個人(プレイヤー)」への攻撃なのかが、重要な判断の分かれ目となります。
ハラスメント対策の目的と視点について
ハラスメント対策を効果的に進めるためには、その目的と基本的な視点を組織全体で共有することが不可欠です。
「職場環境の整備」の必要性
ハラスメント対策は「被害者の救済」のためにあるという説明がなされることがありますが、ハラスメント対策の究極的な目的は、あくまで健全な「職場環境」を整えることにあります。「被害者救済」は、その目的を達成するための重要な「手段」ではありますが、「目的」そのものではないのです。この視点を持つことで、ハラスメント対策は、ハラスメント行為の当事者の問題ではなく、組織自体の問題であるとして、そういう問題を生じさせないような風土改革という、より長期的で本質的な取り組みへとつなげることが必要です。
ハラスメント対策で会社が考えること
会社の明確な意思表示が必須
いかに精巧な制度や研修を導入したとしても、会社自身にハラスメントを根絶するという強い意思がなければ、根本的な解決は絶対に不可能です。ハラスメント問題について、経営トップが組織自体の問題として取り組むのだという、明確な意思表示を示せない企業では、対策は形骸化し、相談窓口が単に不満を吸収するだけの機能に留まってしまいます。会社の「やる気」こそが、すべてのハラスメント対策の土台となります。
対応方針は「会社の判断」が基本
職場環境をどのように改善していくか、そして個別の事案に対して調査をどこまで行うかといった方針は、最終的には会社の判断に委ねられます。申告者から「あれもこれも調べてほしい」といった要望が出されることは少なくありませんが、会社が必要十分だと判断する範囲で調査を行えば足ります。ハラスメント対策は、あくまでも「職場環境の整備」が目的であって、個人の要求をすべて満たすことが目的ではありません。申告者から求められたことに対応していくという受動的なものではなく、必要十分な対応を会社が能動的に検討して実践していくべきものであり、いかに会社が自信を持って対応していくかが重要です。
ハラスメント対策を行う際のポイントについて
効果的なハラスメント対策を実践するためには、以下の3つのポイントを常に意識することが重要です。
1. 「職場環境」の整備の必要性
前章で述べた通り、すべての対応はこの大原則に立ち返る必要があります。「被害者救済」は手段であり、目的ではないという点を関係者全員が理解することが第一歩です。
2. ヒアリングによる事実調査
ハラスメントの申告があった際、その内容が真実か否かを最初の「入口」の段階で判断しようとしてはなりません。申告の対象者を加害者と決めつけてはならないことはもちろんのこと、申告者も当然に被害者であるという前提で対応を進めるべきではありません。まずは申告を真摯に受け止め、ハラスメントがあったのかなかったのか、またどのような措置を講ずべきかの結論は、中立的な調査を経て、最終的な「出口」で事実に基づいた判断を下すというプロセスをとることが極めて重要です。
3. 発生後の対策の重要性
ハラスメントの「予防」が理想であることは言うまでもありません。しかし、現実にはハラスメントの発生をゼロにすることは困難です。そのため、実際に「発生したとき」に、いかに迅速かつ適切に対応できるかという事後対応の体制を構築しておくことが、企業の危機管理において不可欠となります。
ハラスメント対応において行うべきことと注意点について
理想論だけでは、複雑なハラスメント問題には対処できません。企業が対応できることの「限界」を認識した上で、具体的かつ現実的な行動を起こすことが求められます。
ハラスメント対策の限界
まず、企業ができることには元々限界があるという現実を直視する必要があります。
- 行為者も法的に保護される: ハラスメント行為者とされた者も、等しく労働法制によって保護されています。そのため、法律が事業主に「厳正に対処する」ことを求めてはいるものの、ハラスメントがあったからといって、当然にその行為者を解雇できるという保障はありません。
- 申告者の要求すべてに応える義務はない: たとえハラスメントがあったと判断すべき場合でも、会社が「できること」には限界があります。したがって、申告者が求めるままに、すべての要求に応える義務まではありません。
ハラスメント対策で求められる必要な行動
これらの限界を踏まえた上で、企業は以下の行動を徹底すべきです。
- 全件調査の原則
一見、不当に思えるような申告であっても、原則として全件を取り上げ、相談窓口のレベルで門前払いをしないことが鉄則です。まずは申告をすくい上げ、粛々と調査を行う姿勢が重要です。
- マインドセット
調査は時間をかければ良いというものではありません。おおむねの目安として、1ヶ月から3ヶ月程度で出すべきだという意識を持つ必要があります。調査が長引けば長引くほど、関係者の負担が増し、「新たな問題」につながりかねません。
- 問題行動への注意指導
ハラスメント申告の有無にかかわらず、従業員の問題行動を発見したら、すぐに捕まえて注意・指導することが、職場環境の悪化を防ぐ上で極めて重要です。問題の芽を早期に摘むことが、大きなトラブルへの発展を防ぎます。
- 明確な意思伝達
調査が完了したら、会社がどのように判断したかという「ジャッジ」の内容と、それに基づき会社としてどう対応するのかを、書面などで明確に当事者に伝えることが重要です。そして、一度下した会社の最終判断は一種の「業務命令」であると捉え、容易に覆さないという毅然とした態度が求められます。会社によるハラスメント調査の結果や講じた措置に対して、申告者や対象者から異議申立ができるような仕組みがとられることもありますが、会社がしっかりと調査をして、自信をもって結論を出したならば、異議申立の仕組みを設けること自体、必須ではありません。
- 申告者への注意指導の可能性
調査の結果、申告者の方に問題があったと判断された場合や、申告後の行き過ぎた態度が見られる場合には、逆に申告者を注意指導することもあり得ます。ハラスメント申告をしたことそれ自体を理由とした不利益な取り扱いを行ってはなりませんが、調査の結果、ハラスメント申告をした側にこそ、問題があったというのであれば、むしろ申告者自身を注意指導の対象としなければなりません。この場合には、ハラスメント申告をしたことそれ自体ではなく、これとは別の問題行動を対象としているので、注意指導を行ったからといって、不利益取扱の禁止に触れるものではありません。
ハラスメント調査を行う際の注意点
正確な事実認定を行うために、調査は細心の注意を払って進める必要があります。
- 場所・方法
事情聴取は、他の従業員に見聞きされない会議室などで行います。その際、特に申告者から録音をしたいという申し出がなされることがありますが、機密保持の観点から、録音は不可とすることが望ましいといえます。ハラスメント調査では、申告者だけでなく、関係者のプライバシーが保護されなければならないので、申告者といえども、調査の内容や関係者のプライバシーに触れることを言いふらしてよいものではあり得ません。関係者はもちろん、申告者にも、調査の内容や結果について、守秘するように誓約を求めることは正しいことであり、これに従わないのであれば、申告者といえども注意指導の対象とすべきです。
- 事実認定のポイント
関係者の話の信用性は、①具体性、②詳細性、③迫真性、④合理性といった観点から総合的に判断します。ここで最も重要なのは、「疑わしい」というレベルで、行為者とされた人を「加害者扱い」してはならないということです。その結果、ハラスメント申告がなされた出来事が実際にあったのかどうか、判別できない場合もあり得ます。その場合、結論としては「真偽不明」となりますが、そのことはハラスメント申告がなされた出来事が「なかった」ことを意味するわけではありません。結論として「真偽不明」なのか「事実なし」なのかは、その後の対応が大きく異なるため、明確に区別して判断する必要があります。
法律上求められる対策(事業主の措置)と課題について
法律は、事業主に対してハラスメント対策として以下の4つの措置を講じることを義務付けています。しかし、これらの措置にはそれぞれ構造的な課題も存在します。
1. 事業主の方針等の明確化と周知の必要性
ハラスメントの内容や禁止方針、行為者への厳正な対処方針を就業規則等に定め、周知・啓発する措置を講じることは、ハラスメント対策のための出発点です。その一環として、ハラスメント研修が実施されることも有用ですが、こうして個々の労働者に周知したところで、「職場環境」そのものが改善されなければ実効性は乏しいです。ここでも規程の整備や研修は、あくまでも手段であり、それ自体が目的とならないように留意することが必要です。特にハラスメント研修は、実施すること自体が目的となりがちです。定期的に研修を実施するのであれば、その段階までの職場固有の問題を毎回洗い出し、その問題を克服することを目的として、効果的なテーマを設定した上で実施をすべきです。
2. 相談窓口の設置
ハラスメント対策を実践するためには、現場からの声を拾い上げるための相談窓口を設置し、担当者が適切に対応できる体制を整える措置をとることが求められます。「相談窓口」という名称から、「相談者の味方」という理解がなされることも少なくありませんが、この窓口の役割は、会社が職場環境を整えるための過大を吸い上げるところにあるので、申告者に対しても、対象者に対しても、中立的でなければなりません。窓口自体は、中立的な立場で調査を行うためのセクションとして位置づけ、その調査結果に基づいて、どのような判断を行い、措置を講じるかは、会社の経営層に委ねることが望ましいといえます。窓口には、その役割にふさわしい権限を与えるべきであり、会社内で十分な権限を有する役職者を責任者に充てるべきです。
3. 事後の迅速かつ適切な対応
ハラスメント申告があった場合の対応は、事実関係の確認、関係者への配慮、調査結果をふまえた判断、その判断に基づく再発防止も含めた適切な措置を迅速かつ適切に一連のものとして行うことで実践すべきです。 もし、事実関係を把握するためのノウハウが蓄積されていない場合には、弁護士などの専門家に助言を受けながら対応をすることが有用です。特に、申告者が必ずしも被害者ではなく、むしろ加害者的な立場にあるという場合などには、かえって申告者に対して厳正な対処をせねばならないことに留意が必要です。
4. その他講ずべき措置
ハラスメント対策として、申告者や関係者のプライバシー保護や、申告を理由とした不利益取扱いの禁止を定めることが義務づけられており、会社はこのことを従業員に周知しなければなりません。法令上、申告者のプライバシー保護のため、匿名での通報も許容されていますが、その場合、おのずと対応できる範囲には制限が生じることはやむを得ません。また、このプライバシー保護は、申告者だけでなく、対象者や関係者との関係でも求められます。特に、調査記録などは、たとえ申告者であっても、関係者や調査に当たった担当者のプライバシーの関係で、当然に開示が認められるものではないことにも留意が必要です。
まとめ
本記事で詳述してきたように、ハラスメント対策は単なるルール作りや事後処理ではありません。それは、「健全な職場環境を整備する」という明確な目的意識のもと、会社の強いリーダーシップによって推進されるべき経営課題です。
法律で定められた措置を講じることはもちろん重要ですが、それらがなぜ機能しづらいのかという構造的な課題を理解し、本質的な対策へと昇華させる必要があります。そのためには、門前払いをしない毅然とした調査姿勢、迅速な結論を出すというマインドセット、そして一度下した判断は覆さないという一貫性が不可欠です。
ハラスメントのない職場は、すべての従業員が安心して能力を発揮できる基盤であり、企業の持続的な成長に直結します。本記事が、貴社のハラスメント対策をより実効性の高いものへと進化させる一助となれば幸いです。

京都総合法律事務所は、1976(昭和51)年の開所以来、京都で最初の「総合法律事務所」として、個人の皆さまからはもちろん、数多くの企業の皆さまからの幅広い分野にわたるご相談やご依頼に対応して参りました。経験豊富なベテランから元気あふれる若手まで総勢10名超の弁護士体制で、それぞれの持ち味を活かしたサポートをご提供いたします。
法律相談のご予約はお電話で
土日祝:応相談