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【弁護士による判例解説】管理監督者に該当するとされた事例

1 はじめに

従業員から残業代請求をされた会社側の主張として、「その従業員は管理監督者に当たるから、残業代を支払う必要はない!」というものがあります。

このような主張はたいてい、裁判所によってあっさり否定されることが多いのですが、管理監督者に当たると認められたレアケース(福岡高判令和3年12月9日判時2536号83頁)がありましたので、今回はこれをご紹介します。

2 事案の概要

⑴ 原告Xは、福岡県某町の公立図書館(本件図書館)の館長です(期限付職員)。短大卒業後、複数の公立図書館や会社で司書業務に携わり、他の公立図書館で館長を務めた経験もありました。本件図書館の館長については、全国公募の受付がなされており、Xはこれに応募して選考に合格し、館長になりました。

⑵ 被告Yは、本件図書館を設置・運営する地方公共団体(町)になります。

⑶ 第一審判決(福岡地田川支判令和3年3月17日判時2536号90頁)は、Xが、

・契約前に年俸650万円・残業代なしとの説明を受け、特段異議を述べなかったこと

・勤務開始後、「年俸制だから、どんなに働いても残業代はない」と発言していたこと

などの事実を認定し、Xによる残業代請求は信義則違反※1であるとして、残業代請求を認めませんでした。これに対し、Xが控訴したのが、本件です。

※1 信義則とは、民法1条2項「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」という信義誠実の原則のことです。簡単にいうと、「信頼を裏切ったり、不誠実なふるまいをしたりしてはいけません」という一般原則です。同じく民法の一般原則に「権利濫用の禁止」がありますが、こちらについては弊所HP人気記事「~宇奈月温泉事件~」をご参照ください。

3 本件判決の内容 ~管理監督者とは?~

⑴ 控訴審では、争点が再整理され、いわゆる「管理監督者」に当たるかが問題とされました。「管理監督者」に当たる場合、残業代請求は認められません。

(労働時間等に関する規定の適用除外)

第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

一 (省略)

二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

三 (省略)

 

⑵ では、どのような場合に「管理監督者」に当たるといえるのか。それは、「管理監督者」に労働時間等の規制を適用しない(残業代請求を認めない)ことにした法の趣旨に立ち返り、考える必要があります。

「管理監督者」に労働時間等の規制が適用されない趣旨は、

Ⅰ その職務及び責任の重要性並びに勤務実態に照らし、法定労働時間の枠を超えて勤務する必要があり、労働時間等に対する規制になじまない

Ⅱ 職務の内容及び権限並びに勤務実態に照らし、労働時間を自由に定めることができ賃金等の待遇に照らして、労働時間等に関する適用を除外されても、労働基準法1条の基本理念、同法37条Ⅰ項の趣旨に反しない

という点にあると言われています。このことは、本判決でも述べられています。

 

⑶ 以上のような法の趣旨を踏まえて、行政実務や裁判例では、

A 経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められている

B 自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有している

C 一般の従業員と比べその地位と権限に相応しい賃金上の処遇を与えられている

という要件が必要とされてきました。

その後、平成20年代の裁判例では、

a 職務内容が少なくともある部門全体の統括的な立場にある

b 部下に対する労務管理上の決定権限等につき一定の裁量権を有し、人事考課・機密事項に接している

c 管理職手当などで時間外手当が支給されないことを十分に補っている

d 自己の出退勤を自ら決定する権限がある

といった判断基準が提示されています。

 

⑷ 今回のXについては、次のように判断されました。

・ 館長として、図書館業務の運営管理という中核部分(具体的には、図書の貸出・レファレンスサービス※2等の図書館司書業務の管理や、職員・司書等のスタッフの管理・育成等)と、その準備として密接に関する部分(図書館の設計・建築、本件図書館の企画等)の業務を委ねられており、図書館法13条2項の「館長」として相応しい権限と責任が与えられ、施設管理運営の責任を実質的に担う立場にあり(A、a、b)、このような業務内容は創造的・非定型的であり、労働時間等に関する規制になじまない側面が大きい

・ YがXの労働時間や時間外勤務を超勤命令簿で管理していた事実はなく(B、d)、XがYに対し残業代の支払を請求したこともなかったことに照らすと、Xは自らの裁量により労働に従事していた

・ Xの年俸650万円は、本件図書館の他の嘱託職員の月給に比べて2~3倍の金額であり、Xが以前勤めていた他の公立図書館の館長としての年収が400~450万円程度であったことも考慮すれば、Xは職務内容・権限・責任や勤務態様に相応する待遇を受けていた(C、c)

※2 レファレンスサービス(reference service):図書館利用者が必要な情報や資料等を求めた際、図書館員がそれを検索、提供、回答して助ける業務。

5 まとめ

第一審判決をざっと見ただけでは、

「事前に残業代なしと説明して、異議は出なかった」

「本人も『残業代は出ないから~』と発言していた」

「残業代請求は信義則違反となり、認められない!」

と言えそうな気がして、「お⁉ これは使える⁉」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、残念ながら、そういうことではありません。

ご紹介したように、「管理監督者」に当たるか否かは、A~Cやa~dの要件にあてはめて検討されるため、ハードルはかなり高いのです。

今回、Xが「管理監督者」と認められた大きな要因の一つは、当該事業所や同業他社の一般労働者と比べて高額な年俸が支払われていたからではないかと思います。逆から言えば、管理監督者の権限や責任に「相応しい金額」として、かなり多額の賃金等を支払っていなければ、「管理監督者」には当たらないと判断されやすいのです。いくら支払っていれば、一般の従業員と比べその地位と権限に相応しい賃金上の処遇といえるかについて、ハッキリとした基準はありませんが、最低でも残業代を支払った方がかえって安上がりだといえるほどの金額を支払っていることが必要だと考えておくべきでしょう。

要するに、正規の残業代と同額以上の金額を支払っていなければ、「管理監督者」とは認められないわけですから、「残業代請求を回避したい」、「残業代を節約したい」という魂胆で「管理監督者に当たる」と主張しても、全く無意味はないということですので、覚えておいてください。

執筆者:弁護士 船岡亮太

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