団体交渉の開催に条件をつけてはいけない?
~条件に固執して団体交渉を開催しなかったことが不当労働行為に当たるとされた事例~
団体交渉の開催にあたり,会社側が労働組合に条件を提示したケースについて,興味深い裁判例が出ましたので,ご紹介します(東京地判令和2年1月30日判時2482号57頁)。
1 事案の概要
⑴ 労働組合が会社に団体交渉を申し入れたところ,会社は次の3条件を提示しました。
①守秘義務条件:団体交渉に関する一切の情報を正当な理由なく第三者に開示又は漏洩しないこと
②録音撮影禁止条件:団体交渉において録音及び撮影を行わないこと
③議事進行条件:団体交渉当日は会社側弁護士の議事進行に従うこと
⑵ 組合は3条件を拒否しましたが,会社は3条件に応じなければ団体交渉は開催しないとの姿勢を貫きました。また,組合は3条件に関する事前協議も申し入れましたが,会社はこれにも応じませんでした。
2 解説
⑴ 上記3条件について,どう思われたでしょうか。「それほど無茶な条件ではないのでは?」と思った方も多いのではないでしょうか。
⑵ 裁判所はまず,次のような判断枠組みを示しました。
・ 団体交渉の拒否には,「正当な理由」が必要である。
・ 開催条件に拘って団体交渉が開催されないとき,条件に拘っている側が,団体交渉を拒否したとみられることもあり得る。
⑶ そして,条件に拘ったことによる団体交渉拒否の「正当な理由」については,次の事情を総合考慮して判断すると述べました。
・ 労使対等の立場で合意を形成するという団体交渉の目的に照らし,条件等の内容に「必要性」が認められるか
・ 円滑な団体交渉実施という観点から,条件等の内容それ自体に「合理性」が認められるか
・ 条件等の内容が,団体交渉の他方当事者の利益を不当に害するものか
⑷ その上で,上記3条件について,それぞれ次のように判断しました。
ア 守秘義務条件
団体交渉の内容・結果の公表は,労働組合にとって自己の要求実現のための運動や,加入勧誘等に必要である一方,労働条件に関する内容や公表されている会社の経営状態・財産状態などは,必ずしも秘密として保護すべき「必要性」が高くない。
これら一切についての守秘義務に同意しなければ団体交渉を開催しない,とすると,労働組合は本質的な情報も公表できないことになり,労働組合の利益を害するため「合理性」が認められない。
イ 録音撮影禁止条件
団体交渉の内容を正確に記録しておくことは,労使双方にとって「必要性」が認められる。
これまでの経緯(会社側弁護士が,数か月間にわたり質問に回答しないかったこと,従前のやり取りについて記録していなかったのではと思われる発言をしたこと等)から,組合側が「正確に記録しておきたい」と考えても「合理性」がないとはいえない。
ウ 議事進行条件
団体交渉は労使対等な立場で行うべきであり,労使間の合意がないのに会社側弁護士が一方的に議事進行を行うことは当然に「合理性」が認められるものではない。
また,前記経緯から,会社側弁護士に議事進行を任せることができないと組合側が考えたことについて,理由がないとまではいえない。
⑸ このように,裁判所は,会社側が上記3条件に拘ることに「必要性」「合理性」が認められず,条件に拘ったことによる団体交渉拒否には「正当な理由」がなかったと判断しました。
3 まとめ
今回の裁判例を踏まえると,本記事のタイトル「団体交渉の開催に条件をつけてはいけない?」に対する答えは,「条件をつけても良いが,「必要性」「合理性」が認められる条件でなければならない」ということになります。
どのような条件であれば「必要性」「合理性」が認められるかについては,従前の労使関係や団体交渉等の経過を踏まえなければならず,個別具体的なケース・バイ・ケースの判断が必要になってきます。
団体交渉の開催等,労使問題について悩み・不安・疑問等ありましたら,弊所の経験豊富な弁護士が承りますので,是非ご相談ください。
(弁護士 船岡亮太)
京都総合法律事務所は、1976(昭和51)年の開所以来、京都で最初の「総合法律事務所」として、個人の皆さまからはもちろん、数多くの企業の皆さまからの幅広い分野にわたるご相談やご依頼に対応して参りました。経験豊富なベテランから元気あふれる若手まで総勢10名超の弁護士体制で、それぞれの持ち味を活かしたサポートをご提供いたします。
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