京都弁護士による
企業労務相談

京都弁護士会所属・京都市役所前駅16番出口より徒歩3分
075-256-2560
平日:9:00~17:30 土日祝:応相談
HOME/ 弁護士による判例解説/ 【弁護士による判例解説】さくらんぼ収穫に向けた決起大会の腕相撲への参加は仕事か?

【弁護士による判例解説】さくらんぼ収穫に向けた決起大会の腕相撲への参加は仕事か?

業務が原因で労働者がけがや病気になった場合、労働者は、労働基準監督署に対して労災請求をすることができます。労働者が仕事中に怪我をしたときは、必要な療養の費用を使用者が負担することが法律によって義務づけられていますが(労基法75条)、万が一、こうした事故が発生したときには、まずは労災保険制度によって、労働者のための補償が行われることになっているわけです。

では、仕事中ではないものの、事業場外の宴会などの催し物で行われた余興の際にけがをしてしまったときは、どうでしょうか。会社の催し物とはいえ、余興に参加することが「仕事」にあたるといえるのでしょうか。

さくらんぼ収穫に向けた決起大会(宴会)での腕相撲でのけがが「業務上の負傷」であると判断した裁判例をご紹介します(仙台高等裁判所令和3年12月2日判決・判例時報2023年3月11・21日号97頁)。

1 事案の概要及び争点

果物生産会社(以下「本件会社」といいます。)で農作業に従事していたXは、午後7時から、飲食店(そば処)の座敷で、本件会社の社長のほか8名の全従業員と取引先従業員2名が参加する、さくらんぼ収穫に向けた決起大会に参加しました。決起大会は、さくらんぼの収穫前に毎年開かれ、参加者全員による腕相撲も恒例行事として開かれていました。Xは社長から指名され、取引先の従業員と腕相撲をし、右肘骨折等のけがをしました。

本件は、Xが、右肘骨折等のけがが労災保険給付の対象となる「業務上の負傷」(労災法7条1項1号)に該当するとして労働基準監督署に対して、労災請求をしたところ、同署が「業務上負傷した場合にあたらない」と判断し、療養補償給付及び休業補償給付を支給しない旨の各処分(以下「本件処分」といいます。)をし、Xが本件処分は違法であるとして、国に対して、その取り消しを求めた事案です。

原審(山形地方裁判所・令和3年7月13日判決)では、Xの右肘骨折等のけがは業務上の負傷に該当しないと判断し、Xがこれを不服として控訴しました。

本件の争点は、「さくらんぼ収穫に向けた決起大会での腕相撲」が業務と認められるかどうかでした。

2 裁判所の判断

(1)原審

原審は、本件決起大会はおよそ業務とは無関係に開催されたものとはいいがたいとしつつも、参加が事実上強制されていたものの午後7時からの開始予定に遅れて参加することも許容され、さらには開始前から飲酒を始める者がいたというように、参加方法や過ごし方は従業員の自由な判断に委ねられていたとして、その拘束性が一般の業務に比べて相当に緩やかであったと判断しました。

さらに、腕相撲大会は、拘束性が緩やかな本件決起大会において、業務の説明が終ったあとの午後7時30分から行われた飲食を伴う懇親会の行事として午後8時頃から行われているのであるから業務との関連性は薄く、相当程度飲食が進んだ段階で行われた余興であり、Xが取引先に対する接待を指示され、行っていたという事情もなく、本件懇親会の性質、酒食の提供の有無、懇親会中における業務への従事の有無、程度、本件腕相撲大会の目的、態様といった事情に照らすと、本件懇親会や本件腕相撲大会が業務への従事と同視できる行事であったとはいえないとし、「業務上負傷した場合にあたらない」と判断しました。

(2)控訴審

これに対して、控訴審では、さくらんぼ等の果物生産という業務や労務の内容、さくらんぼ収穫期に向け労働者の意識を高めるという事業の根幹にかかわる目的で従業員全員参加の下に事業主により毎年開催される決起大会の性質、そば処の座敷での酒食の提供を伴う決起大会の場で恒例行事として全員参加で腕相撲が行われる腕相撲と決起大会の一体性を考慮すれば、従業員わずか8名の会社の社長が、初めて決起大会に参加した新入社員のXに直接指示して腕相撲大会に参加させたことは、業務命令に近い義務的な指示とXに受けとめられることは当然であって、Xが腕相撲に参加したことは、決起大会への参加と一体の会社の業務として、社長の指示に従って業務を遂行した行為であるとしました。

そして、Xが腕相撲により右肘骨折等のけがをしたことは、療養補償給付及び休業補償給付の事由となる労働者が業務上負傷した場合にあたるとし、本件各処分は、「労働者が業務上負傷した場合」という各保険給付の支給要件の解釈適用を誤り、労災保険法12条の8第2項の規定に違反した違法なものであるから取消すべきであるとして、原審の判断を覆しました。

3 まとめ

本件において、原審と控訴審での判断が分かれたように、事業所外や就業時間外での災害について、「業務上」の事故による災害に該当するか否かは、一概に結論を出すことはできず、各事例に応じた判断をする必要があります。

そして、「業務上の負傷」と認められた場合、労災請求だけでなく、会社に対して、安全配慮義務違反などを理由に、損害賠償請求されることもあり得ます。

現在は、「アルハラ」(アルコールハラスメント)という言葉が定着しているように、会社と労働者の紛争リスクは、事業場内にとどまるものではなく、会社主催の宴会にも潜んでいます。そして、本裁判例が判断したように、宴会(決起大会)へ参加させた経緯、宴会の目的・性質、宴会で開催された行事(腕相撲)の性質などをふまえると、腕相撲も「仕事」と判断される可能性があります。何が、「仕事」なのかは、当該事案に応じた個別事情や過去の裁判例をふまえた検討が必要不可欠です。判断に迷われるものがございましたら、ぜひ一度私たちにご相談いただくことをお勧めします。

執筆者:弁護士 竹内まい

法律相談のご予約はお電話で

075-256-2560
平日:9:00~17:30 
土日祝:応相談
ご相談の流れ